2019 Fiscal Year Research-status Report
原子構造に基づく黄色ブドウ球菌ファージS13’の感染マシナリーの解明
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18K06154
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
宮崎 直幸 筑波大学, 生存ダイナミクス研究センター, 助教 (00634677)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内山 淳平 麻布大学, 獣医学部, 講師 (20574619)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | クライオ電子顕微鏡 / 単粒子解析 / ウイルス / ファージ / 構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30~31年度は、非収縮性の短い尾部を有するPodoviridae科の黄色ブドウ球菌ファージS13’の宿主認識とゲノム注入に関わる分子装置の仕組みを理解するために、クライオ電顕単粒子解析法を用いて、黄色ブドウ球菌ファージS13’を構成する全タンパク質の原子モデルの決定を目指して研究を進めてきた。そして、局所3次元クラス分類と局所3次元精密化の方法を改良することにより、S13’を構成するほぼ全ての構成タンパク質の原子モデルの構築に成功した。そして、尾部先端のgp11においては、原子モデル構築は出来なかったが、そのタンパク質が2量体で存在しているという新しい知見を得た。今年度は、その構築した原子モデルの精密化を行い、そのタンパク質間相互作用から、分子装置を構成する個々のタンパク質の認識や、会合機構に関する知見を得た。 さらに、その解析において、S13’のレセプター結合タンパク質が、Siphoviridae科(非収縮性の長い尾部を有するファージ群)のφ11などと構造的類似性があることが判明した。このことから、黄色ブドウ球菌に感染するファージが、共通のレセプター結合タンパク質を持っている可能性が考えられた。そこで、もう1つのMyoviridae科に属す黄色ブドウ球菌の尾部先端の構造を調べ、レセプター結合タンパク質が、実際に黄色ブドウ球菌に感染する全てのウイルス科に渡って保存されているのか調べることにした。Myovirfidae科のファージは、長い収縮性の尾部を有するのが特徴であり、そのウイルス科の黄色ブドウ球菌ファージS6の尾部先端の構造解析も進めた。最先端クライオ電子顕微鏡を用いて、S6のクライオ電顕写真を約2万枚収集した。これは、S6ファージが全長400 nmを超え、非常に巨大であるために、1枚の写真に1~2粒子程度しか写らないためである。現在、その構造解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、黄色ブドウ球菌ファージの感染・増殖機構を調べるために、黄色ブドウ球菌S13’を構成する全てのタンパク質の構造を決定し、その分子装置の仕組みを理解することを目指している。しかし、その感染に重要な役割を持つ尾部の構造は、対称性のミスマッチがあることに加え、非常に巨大で複雑な構造になっており、非常に構造解析が困難な対象の1つである。昨年度までに、局所3次元クラス分類と局所3次元精密化を駆使することにより、研究当初に目標と掲げていたS13’の尾部も含めたほぼ全ての原子モデルの構築に成功し、今年度、その原子モデルの精密化も完了し、研究は順調に推移している。その構築した原子モデルから、ファージの宿主との相互作用様式や、ゲノムを宿主細胞へ注入する際の構造変化を推察することができた。現在、それを実証するために、尾部を構成するタンパク質の発現系の構築と変異体作製に取り組んでいる。それに加え、レセプター結合タンパク質が、全ての黄色ブドウ球菌ファージに渡って、共通であることを解明するために、研究当初には予定していなかった、S6ファージの解析も進めている。したがって、当初の予定どおり研究が進展しているので、進捗区分としては、「おおむね順調に進展している」という判断に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までに、黄色ブドウ球菌ファージS13’のほぼ主要部分の原子モデルの構築に成功し、ファージの構成要素タンパク質が機能的に配置されている様子を明らかにすることができた。今後は、これらの分子装置が実際どのように動作しているのか調べていく。まずは、構造から機能が予測された個々のタンパク質においては、そのタンパク質および変異体を大腸菌において発現させ、その機能解析を進める。その発現コンストラクトの設計は、クライオ電顕により決定した構造を基におこなう。特に、レセプター結合タンパク質などを中心に行っていく予定である。そして、それら発現したタンパク質の宿主結合能を様々な黄色ブドウ球菌株を用いて調べる。また、そのレセプター結合タンパク質が全ての黄色ブドウ球菌に渡って共通であるのかどうか、Myoviridae科のS6ファージの尾部先端の構造を決定することにより明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
今年度予定していた論文投稿が、翌年度になってしまったので、その経費を次年度に繰り越すことにした。
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Research Products
(3 results)