2018 Fiscal Year Research-status Report
逆ラマン分光法による無標識で化学種特定可能な高速細胞イメージングシステム開発
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18K06163
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
中島 聡 奈良先端科学技術大学院大学, 研究推進機構, URA(チーフ) (80263234)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
廣田 俊 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (90283457)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ラマン顕微鏡 / 逆ラマン現象 / ポンププローブ法 / 2次元検出器 / リアルタイム / 脂質モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
ラマン顕微分光法は,非染色・無標識で分子の動態をイメージングできることから、生体分子の動態観測に対して強力なツールになりうる。しかし、通常のラマン顕微鏡では測定点の走査が必要なため撮像に時間がかかる。そこで本研究では、逆ラマン現象を利用して面全体を同時に測定することで、高感度かつ高速検出可能なラマン顕微鏡の開発を目指している。 逆ラマン現象は,分子に入射した二色の光(ポンプ光とプローブ光)の振動数の差が分子振動の振動数と一致した時にプローブ光の強度が変化するという現象で、通常の自発ラマンよりも三桁ほど大きな信号強度を与える。このため,通常の透過型光学顕微鏡を用いて,面で測定できれば画像の撮像時間を劇的に短縮することができる。しかしながら、開発されている逆ラマン顕微鏡の多くが、ポンプ光の強度をMHz単位で変調させて逆ラマンシグナルを得ているため、現行の二次元検出器を用いて面で測定することができない。そこで、二次元検出器を用いて逆ラマンイメージングができるように、kHz単位で変調したポンプ光により逆ラマン信号を得る方法を新規に開発した。まずは、単一の検出素子で光学系の設計や検出限界のレベルを調べた。通常の顕微光学系で同軸で二色の光を入射し、面で検出するためにあえて励起光をデフォーカスさせて数十umの領域が見えるように設定した。励起光を変調させて信号強度変化を測定するため、励起光の漏れ光が巨大なノイズになる。徹底的なノイズ除去や、デジタル的にロックイン検波を行う解析アルゴリズムの開発により、リアルタイムで%以下の強度変化を検出できる単一チャネルの逆ラマン顕微装置を開発できた。この装置を用いて、油滴を脂質のモデル物質として用いた試料の逆ラマンシグナルによる顕微観察に成功した。今後、今回開発した単一素子を二次元検出器に置き換え、イメージング型の逆ラマン顕微鏡を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基礎的なデータとして、単一の検出素子による光学系を構築して、その上で本システムによる検出限界のレベルを調べた。顕微光学系を構築し同軸で二色の光を入射し、面で検出するためにあえて励起光をdefocusさせて数十μmの領域が見えるような配置にした。検出には励起光を変調させて検出光信号強度変化を測定するため、(同期して変調される)励起光の漏れ光が最大のノイズとなりうる。光学系の精密設計によるノイズ除去や、コンピュータアルゴリズミックにロックイン検波を行う解析プログラムの開発により、リアルタイムで0.06%以下の強度変化を検出できる単一チャネルの逆ラマン顕微装置を開発できた。現状でも1素子・1波長あたり2秒でのこの精度での検出が可能である。この条件は、波長選択やアルゴリズムの現物に合わせた最適化、さらには光学系の改良によりさらに向上させることができることも確認した。この装置を用いて、脂質のモデル物質として水溶液中の油滴を用いた試料の本逆ラマン測定システムによる顕微観察に成功した。今後、今回開発した単一素子を二次元検出器に置き換え、イメージング型の逆ラマン顕微鏡を目指す。 今年度の前半は、研究室の移転作業のため、逆ラマン装置に必要なナノ秒高繰り返し波長可変レーザー光源が使用できなかった。その間、一般的な方法では定量が難しい二原子分子を無標識・非侵襲で同定・定量できるラマン装置を開発した。この装置を用いると、水素分子の同位体(D2, HD, H2)及び核スピン異性体(para, ortho)全てを一つのスペクトルで区別し・正確に定量できる。これを用いて、酵素(ヒドロゲナーゼ)による水素重水素同位体交換反応とパラ・オルト変換反応を追跡し、酵素内でのガス分子の挙動を調べることに成功し、その反応メカニズムを議論した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度末研究室移転作業をほぼ完了し、ナノ秒高繰り返し波長可変レーザー光源と逆ラマン顕微分光光学系の設置を完了した。また、本年度はシングルチャンネルであった顕微光学系に高速高分解能CMOS 2次元検出器を設置したので画像化を目指す。 (1)高速高分解能2次元CMOS検出器を用いた逆ラマン顕微分光光学システムの構築 本年度は昨年度完成させた単一素子による逆ラマン顕微分光光学システムに高速高分解能2次元CMOS検出器を導入して、逆ラマン顕微像の検出を試みる。そのために、単一素子に特化していた光学系を像による検出可能な光学系へ組み替える。先ずは、変調して利用している励起光由来の迷光を除去する光学系を構築する。励起光の漏れ光は巨大なノイズとなりうるが、単一素子の場合、励起光角度依存性を考慮する必要性が少なかったが、面で像を受けるとそれがcriticalになる。次にデジタル的にロックイン検波を行う解析プログラムの開発を行う。現在入手できる最速のCMOSでも16bitの深度の場合128X128素子で500Hzが最速である。これは約1GB/minのデータ量に相当し、これらを迅速に統計処理して画像化する必要があるため、高速かつ高効率のアルゴリズムを開発する。 (2)モデル系画像化と特性検出 脂質モデル系として水溶液中に分散した油滴を画像化する。水および油滴は現れるラマン線が全く異なるため、異なる2波長にそれぞれ固定したラマン像を取得し、光学顕微鏡画像との差異の比較検討を行う。この際、顕微像下の分布と実距離の比較から空間分解能に関する検出感度を算出する。脂質もであるが、水の場合そのクラスタ構造などミクロな環境によってスペクトル形が大きく異なる。このことは単に細胞内での分布だけでなく、形態などの指標として活用できる可能性を秘めている。
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Causes of Carryover |
備品として、2次元検出器は導入したが、消耗品の購入に若干の誤差が生じたため。次年度以降は必要な光学部品等消耗品の購入に充てる。
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Research Products
(4 results)