2019 Fiscal Year Research-status Report
偏光と超高解像度顕微鏡でアクチン線維が張力センサーとして働くメカニズムを解明する
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18K06167
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
辰巳 仁史 金沢工業大学, バイオ・化学部, 教授 (20171720)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 力学刺激受容機構 / メカノバイオロジー / アクチン線維 |
Outline of Annual Research Achievements |
機械刺激による細胞応答でみられる細胞全体の形態変化に先立って、方向性のある変化を示すのは細胞骨格 (ストレスファイバー)であることが分かっている。伸展方向に平行な主要なストレスファイバーが消失した後、伸展軸に垂直な方向のストレスファイバーが認められるようになる。これは、ストレスファイバーが機械刺激の方向を感知するセンサーとして機能することを示唆する。このストレスファイバーはアクチン線維によって構成されている。そこから、アクチン線維は力学刺激受容装置である可能性が示唆されている。本研究ではアクチン線維による力学刺激受容の分子機構を調べる。我々は逆転的な発想により以下のような仮説を提案した。すなわち”アクチン線維は線維の長軸方向に常にねじれており、ねじれが大きい時にコフィリンの結合部位がアクチン線維の表面に現れてコフィリンの結合とアクチン線維の切断が起きるが、アクチン線維の張力が大きくなった時にはこのねじれのゆらぎは抑えられてコフィリンの結合が抑制される”と考えた。アクチン線維内の張力が増すとアクチン線維のねじれのゆらぎの振幅が小さくなることを示すことができた。しかしこの実験データからはアクチン線維全体でのねじれの変化を知ることができるが、上記の仮説を検証するために必要なデータを得ることはできない。本研究の目的はアクチン線維においてねじれが自発的に発生する位置やタイミング、またねじれの発生した部分に実際にコフィリンが結合すること、そしてねじれの発生が張力によって抑制され、それに伴ってコフィリンの結合が抑制されることを示すことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
球状のタンパク質分子であるGアクチンを試験管の中で“重合”させると、数μmから数十μmのアクチン線維ができた。本研究ではアクチン線維一本をガラスカバーグラスに弱く結合させて、アクチン線維のねじれの様子をアクチン線維全長に渡って詳細に分析しつつある。アクチン線維のねじれを評価するためにアクチン線維を蛍光分子ローダミンで標識した。ローダミン分子はその方向に依存した偏光を発する。この偏光の向きをそのままCCDカメラで撮影しても偏光の変化を記録することはできない。そこで偏光の向きに従って光の屈折が変化する方解石プリズムをCCDカメラの前にセットした。方解石プリズムは偏光の向きに従って画像を二組に分ける。予備実験を行った結果、これら二組の画像をCCDカメラで記録することができた。偏光の強さが時間とともに入れ替わることが観察され、アクチン線維が長軸に沿って自発的にねじれを生じていることが分かった。これらの動画の詳細分析を行うと、アクチン線維は、それぞれの場所で個々に独立にねじれ運動をしている。また時にはねじれは同じ場所で繰り返すことが見られ、詳しく見るとひと続きのアクチン線維の一部が同時に大きくねじれる様子も捉えられ、多様なモードの存在が示唆された。磁気ビーズをアクチン線維に結合し電磁石により牽引することで、アクチン線維の多様なねじれのモードの内のどのモードが張力に大きく影響を受けるかを検討し、張力受容において重要な役割を持つねじれのモードを確定する準備ができた。さらにアクチン線維に量子ドットを結合させると、アクチン線維のねじれに従って偏光面の変化を測定できる。ローダミンの偏光面の変化とともに近傍に結合している量子ドットの偏光面の回転を評価することでアクチン線維のねじれの測定をより確実にすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
アクチン線維の揺らぎの振れ幅の減少と、磁気ビーズと測定点の距離の関係を調べる。また、アクチン線維の揺らぎの振れ幅の減少と、アクチン線維の向きの関係を調べる。これまでの解析データからアクチン線維の揺らぎの振れ幅の減少は、磁気ビーズとの距離またはアクチン線維の向きに依存しないことを検討する。おそらくクチン線維上で張力がかかったときに、かかる力に距離依存性はなく、どの部分にも同じように力がかかると考えられる。アクチン線維に結合した量子ドットの向きの分析を3次元的に行い、アクチン線維の向きと照合することで、アクチン線維の長軸の回りでのねじれ、長軸にそった曲げの評価を行う予定である。また、これらねじれと曲げの要素の中で、アクチン線維のねじれゆらぎモードの中から力学受容に使われているねじれのモードを決定し、アクチン線維の力学受容の分子機構の解明を目指す予定である。これまで知られているアクチン線維の構造の知見や我々が構築中の統計力学モデルと総合し上記分子機構の妥当性を評価する予定である。
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Causes of Carryover |
端数調整のため残額が残った。次年度の支払い請求額と合わせて研究に使用予定である。
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