2019 Fiscal Year Research-status Report
磁気受容蛋白質複合体の会合制御による構造機能相関の解明
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18K06174
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
新井 栄揮 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学領域, 上席研究員(定常) (00391269)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | タンパク質 / 立体構造 / X線小角散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
磁気を感知する能力を有するカワラバト等の生物種(磁覚保有種)は、鉄硫黄クラスターアセンブリ1ホモログ蛋白質ISCA1(旧名MagR)の自己会合体と青色光受容蛋白質クリプトクロム(Cry)とによって構成される複合体を網膜細胞などに保有する。同複合体は、地磁気程度の弱磁場にも応答・配向するという極めて稀な性質を有するため、磁覚の原因物質の可能性があるとして注目されている。本研究では、ISCA1自己会合体やCry/ISCA1複合体の構造・分子挙動・物性等を明らかにして構造・機能相関を解明することを目標とする。得られる知見は、磁気が関与する動物行動を理解する分子基盤構築に資するとともに、磁気を使って分子配向や細胞挙動などを操作する新規技術開発やバイオ材料創製など、多くの技術革新に繋がると期待できる。 2019年度は、2018年度に構築したカワラバト由来ISCA1(以下、pISCA1)の大腸菌発現系を改良し、pISCA1発現量の向上を図るとともに、より野生型に近いアミノ酸配列を有するpISCA1の調製方法を確立した。同手法により作製したpISCA1の溶液構造を放射光X線小角散乱法(SR-SAXS)により解析した結果、pISCA1単分子は二種類の構造(球状のType-Aと柱状のType-B)を形成することを発見した。さらに、Type-AのpISCA1は8量体以上の自己会合体を形成しうることが明らかとなった。Type-Aの自己会合体はpISCA1分子間界面に鉄硫黄クラスター結合部位を形成する可能性がある。Type-A における多量体化はpISCA1への多くの鉄硫黄クラスターの結合を可能化し、鉄原子に起因する起磁力向上に寄与することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ISCA1は鉄硫黄クラスター生合成に関わる蛋白質の一つであり、同生合成経路において鉄硫黄クラスターの一過的な保持や基質蛋白質への鉄硫黄クラスターの転移に寄与することが知られている。一方、磁覚に関わるISCA1の構造・物性の実験的知見は極めて限定的であった。本研究では、放射光施設Photon FactoryのBL-10Cを用いたSR-SAXS実験により、磁覚への関与が推測されるpISCA1の溶液構造・分子挙動・会合状態などを初めて明らかにした。例えば、20 mM Tris-HCl緩衝液(pH 8), 0.15 M NaCl, 10 mM還元剤, pISCA1濃度2~7 mg/mlの溶液条件下において、pISCA1は球状の分子 (Type-A)と柱状の分子(Type-B)が混在した状態にあり、Type-Bは会合が2量体までに止まるのに対し、Type-Aは8量体以上の会合体を形成することなどを発見した。さらに、SR-SAXSデータおよび相同蛋白質の結晶構造に基づいたpISCA1の分子モデリングから、Type-AのpISCA1自己会合体の分子間界面に鉄硫黄クラスター結合部位が形成されることが推測された。一方、Type-BのpISCA1は鉄硫黄クラスター結合部位の形成が困難と推測された。Type-A における多量体化はpISCA1への多くの鉄硫黄クラスターの結合を可能化し、起磁力向上の要因となり得る多くの鉄硫黄クラスターの結合を可能にすると考えられる。これらの知見は、ISCA1やCry/ISCA1複合体の構造・機能相関を理解する上で極めて重要である。Cryの試料調製は難航中だが、ISCA1について当初の計画以上の成果が得られたため、成果を総合的に鑑みて「現在までの進捗状況」を「2 : おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究により、pISCA1溶液中におけるType-AとType-Bの体積分率や各種会合体の体積分率はpISCA1濃度依存的に変化する可能性が示された。また、蛍光顕微鏡等を用いた他の研究例では、生体内においてISCA1が局所的(網膜細胞表面付近、ミトコンドリアなど)に集まる現象が示唆される。即ち、生体内においては、pISCA1濃度が局所的に増大し、それに伴ってISCA1はType-AとType-Bの間で構造変化する可能性がある。この構造変化は、ISCA1の鉄硫黄クラスター保持機能と相関する可能性がある。そこで2020年度は、サイズ排除クロマトグラフィー小角X線散乱(SEC-SAXS)等の手法を駆使し、ISCA1の構造変化・各種会合体の体積分率・鉄硫黄クラスター保持機能の蛋白質濃度依存性・溶液条件依存性などを明らかにする。また、申請者らが既に開発済みである試料用磁場印加装置をSR-SAXSに適用できるように改良し、磁場印加時のpISCA1の構造や会合状態の変化の可能性を探る。 Cryについては、大腸菌発現系において不溶性の封入体として発現する傾向が改善されておらず、構造解析・物性測定等に使用できる量の試料が得られていない。2020年度はCryの可溶性・収量を改善するために数種類の可溶化タグの使用を試みるとともに、予算状況を鑑みつつ酵母・昆虫細胞等の発現系を利用したCryの調製も検討する。Cryの試料調製が成功した場合、pISCA1との複合体を作製し、上記pISCA1の検討と同様にSR-SAXS, SEC-SAXS等による構造・物性の解明を試みる。
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Causes of Carryover |
【次年度使用額が生じた理由】 2019年度はほぼ予定通りの額を使用したが、新型コロナウイルス感染拡大の影響等により、出張・学会発表等の中止に伴う旅費の一部未使用や、実験の中断による物品の一部購入延期(SR-SAXS用試料セル・消耗品類等)などが生じた。 【2020年度の使用計画】 2020年度は、上記で生じた繰越金をSR-SAXS用試料セル・消耗品類等の購入に充てる。また、新型コロナウイルスの影響により、当初予定していた海外渡航(IUPAB2020国際会議、ブラジル)を中止し、オンラインシンポジウムを中心とした成果発表を行うための費用に充てる。申請者は、2020年度日本生物物理学会年会のオーガナイザーとして本研究分野のオンラインシンポジウムを立案中であり、そこで本研究成果を発表する予定であるため、シンポジウム開催・発表に必要な物品(TV会議用PC、カメラ、マイク等)を購入する予定である。
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Research Products
(1 results)