2018 Fiscal Year Research-status Report
Mechanism to drive the evolution of non self-recognizing loci controlling plant reproduction
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18K06178
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保 健一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任助教 (60403359)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 自他識別 / 協調的非自己認識 / S-RNase型自家不和合性 / 分子進化 / 植物ゲノム生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の多くは自家不和合性という種内生殖障壁によって交配相手の自他を識別し、近親交配を回避している。ナス科植物ペチュニアの自家不和合性は、協調的非自己認識システムであり、自他識別の際の特異性は1つの雌ずい因子(S-RNase)と多数の花粉因子(SLF)をコードするS-遺伝子座のハプロタイプによって決定されている:S-RNaseは細胞毒性タンパク質として自己花粉管の伸長を阻害し、一方SLFはS-RNaseを認識・解毒するタンパク質として非自己由来S-RNaseを解毒して他殖を保証している。本研究の目的は、ペチュニアの自家不和合性システムの成立において必須の過程である、自他識別に都合の良い花粉因子のレパートリーを進化させてきた過程について明らかにすることであり、そのため、複数のハプロタイプのS-遺伝子座の配列構造を決定、比較検討することを目的としている。このS-遺伝子座は20Mbほどの大きさが予想され、内部は遺伝子間の距離が長く、リピートに非常に富むため、これまでアセンブリができていなかった。本研究は、配列解析の手段としてロングリードの次世代シークエンス技術を採用し、初めてペチュニアのS-遺伝子座のde novoアセンブリを目指している点を特徴としている。 平成30年度の研究では、ペチュニアからのロングリード次世代シークエンスに供しうる高分子量ゲノムDNAの抽出方法を検討した。結果として、SDS抽出法を独自に最適化した方法を開発し、ペチュニアの組織の中でつぼみ花弁を用いることで最も高い品質を達成しうることを突き止めた。6つのS-ハプロタイプ(S7-、S17-、S19-、Sc2-、S22、S22m-ハプロタイプ)についてホモの個体について高品質ゲノムDNAを抽出し、今後はライブラリー作成の上、シークエンス解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初使用を予定していたS-ハプロタイプについてホモ化した植物は、過去20年近くクローン繁殖によって安定に維持してきた系統であったが、最近急に著しい生育不良を起こすようになり、さらに生殖能力を失ってしまった。また、生育不良となった個体からの高品質ゲノムDNAの抽出は、フェノール系化合物と推測される褐色粘性の物質の蓄積により、著しく困難となった。これらの不良の原因は全く不明であり、改善の見込みが得られなかった。そこで、つぼみ自殖によって得た種子の中から、生育および生殖機能が正常でS-ハプロタイプについてホモ化されている新規な株の選抜を行い、優良な系統を得ることを試み、これに成功した。この選抜過程の必要が、想定外の遅れの原因となった。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究によって得られた高分子量ゲノムDNAサンプルを用い、Oxford Nanopore社のロングリードシークエンサーMinIONによる解析を行う。より短期間で目的の成果を達成するため、S-遺伝子座全体に対するアセンブリではなく、SLF1-SLF8を含む領域に限定した構造比較解析を当初の目的とする。これらのSLF遺伝子について、自家不和合性系統S7-、S19-ハプロタイプ、および和合性変異系統Sc2-、S22m-ハプロタイプは、全く同一の配列を持つコピーを他のハプロタイプのS-遺伝子座から獲得したことが示唆されており、特にSc2-、S22m-ハプロタイプについては遺伝子獲得イベント前の野生株に相当するS17-、S22-ハプロタイプについても解析可能であるため、同領域を遺伝子獲得イベントの前後で比較することで、S-遺伝子座進化について重要な知見が得られると期待できる。また、同領域はこれまでの自家和合性ペチュニアでのゲノムシークエンス情報から、40-100 kbの距離にあると予想されることから、比較的用意にアセンブリ可能ではないかと期待できる。
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Causes of Carryover |
初年度において予定していた次世代シークエンス解析を開始することができなかったため、大きな次年度使用額が生じた。同解析に必要な実験を今年度において行うため、昨年度からの繰越金を利用した解析を計画している。具体的には、繰越金および今年度予算は、主にMinIONの使用に必要なライブラリー調製、シークエンス解析用フローセルの購入、およびアセンブルの外注費用等に充てるとともに、研究の進捗に合わせてデータ上のギャップやエラーを補正するためのサブクローニングとサンガーシークエンス、あるいはショートリード型の次世代シークエンサーを使いた解析にも充てる。 最終年度においては、S-遺伝子座の配列構造のハプロタイプ間での詳細な比較を行う。特に重視する試みとして、共通の花粉因子遺伝子(SLF)を共有する遺伝子座間で、共通SLFの周辺配列に共通する構造上の特徴について抽出し、S-ハプロタイプ間での遺伝子交換が行われた領域を特定するとともに、その具体的な分子メカニズムを明らかにする。得られた結果を取りまとめ、遺伝子交換によってドライブされたS-遺伝子座進化の分子メカニズムについてモデルを考察し、国内外の学会における発表、および原著論文の投稿を通じ、成果の発表を行う。最終年度予算は、学会参加費用、論文原稿校閲および投稿費用にも使用する。
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