2019 Fiscal Year Research-status Report
神経変性疾患の原因遺伝子が引き起こすクロマチン構造変換の分子機構の解析
Project/Area Number |
18K06187
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Research Institution | National Institute of Genetics |
Principal Investigator |
井手 聖 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 助教 (50534567)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | リボソームRNA遺伝子 / クロマチン / 神経疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
リボソーム合成工場である核小体では、リボソームRNA遺伝子(rDNA)が局在し、大量のリボソームRNA(rRNA)を生産している。この多量の転写のために、rDNA領域には転写因子UBFが結合することで、ユニークなクロマチン構造が形成される。本研究では、神経疾患の原因として同定された変異型UBFがrRNAの転写を亢進させハイパーアクティブ状態へと引き上げるクロマチンの構造変換の仕組みを明らかにすることを目的としている。昨年度に変異型UBFを発現させても転写がハイパーアクティブ状態にならなかったことから、新たに神経疾患の原因として患者から同定されたRNAポリメラーゼのサブユニットの二種類のヘテロ接合型変異についての解析を横浜市立大学松本直通先生と共同で行った。この遺伝子をクローニングし、部位特異的変異を挿入後、培養細胞で発現させたところ、変異型のタンパク質の発現は確認できなかった。このことから変異型タンパク質は細胞内において不安定であり、両アリルともに機能喪失性(Loss Of Function)変異であることが明らかとなった。したがって、新たに解析した神経疾患の原因変異もrRNAの転写をハイパーアクティブ状態にするものではなく、むしろ転写の活性を低下させるもので、その結果神経疾患を引き起こすことが示唆される。今後、これらの変異がrRNAの転写にどのよう影響を与えるのかを明らかにすることに注力する。具体的にはマウスES細胞において、ゲノム編集技術を用いて片側アリルを欠損させることで、ヘテロ接合性変異型の細胞、特に神経前駆細胞にどのような影響を及ぼすかを検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、当初当たりをつけていた神経疾患の原因変異が転写の活性に影響を与えないことが判明したことから、本年度は日本人の希少疾患のデータベースからrRNA遺伝子の転写の活性を亢進させるものを一から探すこととなった。結果として、神経疾患の患者の原因変異として新規に同定されていたRNAポリメラーゼのサブユニットの二種類の変異に着目し、それらがRNAポリメラーゼを不安定化させ、機能喪失型であることを明らかとすることができた。このことから、rRNAの転写を亢進する変異に限らず、転写の活性を低下させる変異も神経疾患を引き起こすことが示唆される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのところ、神経疾患原因変異の中からrRNAの転写を亢進させるものは見つからなかった。そこで、転写を亢進させる変異の探索は諦め、今後今年度解析したRNAポリメラーゼのヘテロ接合性変異の解析に注力する。これらの変異は、日本人の希少疾患のデータベースから見つかってきた新規のものなので、この変異がrRNAの転写にどのよう影響を与えるのかを明らかにすることは科学的のみならず臨床における確定診断の点からも重要である。具体的には、マウスES細胞において、ゲノム編集技術を用いて片側アリルを欠損させることで、ヘテロ接合性変異型の細胞、特に神経前駆細胞にどのような影響を及ぼすかを検討する。
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