2018 Fiscal Year Research-status Report
ゲノム合成の基盤技術を自然界でのDNA水平伝播現象をもとに構築する
Project/Area Number |
18K06196
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
金子 真也 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (10399694)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ゲノム合成 / コンティグDNA / 枯草菌 / 応用微生物 / 形質転換 / 核酸 / ゲノム / バイオテクノロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度(2018年度)では、まずコンティグクローンを用いた枯草菌での効率の良いゲノム合成法を検討した。両端がオーバーラップするDNA断片を枯草菌の自然形質転換能を利用して相同組換えによって枯草菌ゲノム中に順次、連結させる手法は既に確立されている。本研究ではDNA断片を一度の形質転換で枯草菌細胞中に導入し枯草菌プラスミドとして構築できるか検証した。対象として、ガン関連遺伝子MYCのゲノム領域を両端が500bp~700bp重複するように5つのコンティグDNA断片(2kb~4kb)に分割し、PCRによりヒト培養細胞のゲノムを鋳型にして増幅した。またこれらが連結された後の両端の領域は、枯草菌プラスミド(枯草菌―大腸菌シャトルプラスミド)ベクターと500bp~700bp重複するように設計した。枯草菌プラスミドも直鎖状にして形質転換に用いるため、5つのコンティグDNA断片とベクターが連結されないと枯草菌のコロニーは形成されない。用いた枯草菌は代表的な168TrpC2株の誘導株で制限修飾系の遺伝子群が欠損しているRM125株を用いた。まず通常の自然形質転換法での導入を複数回試みたが、コロニーは得られなかった。その原因として、枯草菌細胞表層のDNAを取り込む装置が30個程度なため、ベクター込みで6つのDNAを同時に端から取り込む確率が低いことが考えられた。そこで別の形質転換法を検討した。枯草菌の場合、エレクトロポレーションでは条件検討が難しく、結果としてプロトプラスト法によって形質転換体が得られることが判明した。現在、コンティグDNAを効率良く連結できる条件を検討中。また効率化のための自殺遺伝子を用いたセレクション法としてmazF遺伝子を用いた方法を構築した。動物培養細胞への導入法については、まず通常の方法で導入・選択できるDNAを構築でき、現在溶菌法の適用条件を検討中。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、「コンティグクローン連結法」と「枯草菌から動物培養細胞への導入法」について検討した。その結果、興味深い問題点がいくつか判明した。「コンティグクローン連結法」については、通常の枯草菌の自然形質転換では確率的に難しいことがわかり、プロトプラスト法によってDNAを導入できる条件が明らかになった。しかしプロトプラスト法ではDNAが導入された後、相同組換えに必要なRecAと呼ばれるタンパク質の発現誘導が起こらないため効率が悪く、誘導型RecAを保持する枯草菌株が必要なことも判明した。自殺遺伝子mazFを用いたセレクション法はプロモーターを工夫することで温度感受性によって機能し、セレクションできることが確認できた。枯草菌細胞中での環状DNAを線状化する方法については、枯草菌で発現するI-SceIという切断酵素が使用可能であることがわかった。一方、「枯草菌から動物培養細胞への導入法」については、培養細胞中で発現し、機能できるセレクションマーカー(ピューロマイシン、GFPなど)を用いて、相同組換えによってヒト培養細胞のゲノム中に導入できるDNAの構築を実施した。まず通常の培養細胞導入法によって構築したDNA領域を実際にヒト培養細胞ゲノムに相同組換えで導入し、セレクションできることをGFPの発現やPCRなどによって確認でき、培養細胞導入法の系を立ち上げることができた。溶菌法による導入については、今年度行った条件では効率が悪いため、最適条件を検討中。以上、当初予定していた実験内容は一通り試みることができ、数々の問題点が明らかとなった。今年度はこれらの問題点の抽出が目的であり、この結果これらの解決策を検討することができた。以上のことから今年度は当初予定していた通りのペースで本計画が進行しており、おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度(2018年度)は、当初予定していた研究項目を全て実施することができ、想定通り数々の問題点を抽出することができた。この結果を受けて次年度(2019年度)は当初の予定通りこれらの問題点の解決を試みる。まず「コンティグクローン連結法」については、プロトプラスト法によって導入されたコンティグDNA断片を相同組換えで効率良く連結させるために、RecAと呼ばれる相同組換えタンパク質の誘導発現株の構築を目指す。すでにキシロースによってリプレッサーがはずれて高発現が可能な誘導型プロモーター配列のDNAを取得済みで、RecA遺伝子とつなぎ、枯草菌ゲノム中の在来生のRecAと置き換えることによって、誘導型RecAを保持する枯草菌株の構築を実施する。さらにセレクション効率を上げるべく、自殺遺伝子mazFとの併用セレクションも可能か試みる。供与コンティグDNAがPCRによって得たものではなく、プラスミドなどの環状DNAの場合、効率を上げるべく枯草菌細胞中で線状化する必要があるため、枯草菌細胞中で発現できるI-SceI遺伝子の活用も検討する。「枯草菌から動物培養細胞への導入法」については、枯草菌は大腸菌と違ってエンドトキシンが生産されないため、培養液中からエンドトキシンを除去する必要はない。この利点を最大限に生かして、DNA精製操作のない「溶菌法」によるヒト培養細胞への導入条件の確立を目指す。初年度において、セレクション法などを考慮した培養細胞へ導入可能な系が確立されているので、この系を用いて様々な導入法の検討を行う。以上の研究計画を実施し、初年度の問題点を解決し、「水平伝播を利用したゲノム合成技術の実用化」を目指す。
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Causes of Carryover |
(理由)当該年度(2018年度)における研究の進展具合は極めて順調で、当初の計画目標を充分にクリアすることができている。次年度(2019年度)使用額が生じた理由としては、当初追加備品として想定していた生物顕微鏡一式(600千円)、ロータラック(微量遠心機用;丸底遠沈管用)(140千円)、ロータラック(微量遠心機用;PCRプレート用)(220千円)の購入を予算減額に伴い見送ったことが挙げられる。この結果、他の研究室の顕微鏡を使用させてもらったり、遠心操作に多少の煩雑性は生じたものの致命的な支障が出ないよう操作法などを工夫した。消耗品費に関しても実験資材等の再利用等により効率的に研究費を運用できた結果、コストを抑えることができた。 (使用計画)次年度(2019年度)は、初年度に生じた問題点解決の実験を行なうにあたり、培養に必要な培養試薬類、培養資材類、またPCRや各種プラスミドDNAの構築や精製などのための遺伝子工学用試薬類、遺伝子工学資材類、プライマー合成費などの消耗品費が必要と予想される。また単純な試薬の調整、培地の作成、操作、データの取りまとめを補佐する研究補佐(技術員1名)の人件費、及び情報収集、成果報告(学会発表、論文発表など)のための旅費、謝金(論文校閲料を含む)などが必要と予想される。次年度(2019年度)は繰越金を含め、これらの予算で必要充分であると見込まれる。
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