2019 Fiscal Year Research-status Report
アクチン重合阻害剤に対するテトラヒメナの耐性能獲得機構の研究
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18K06204
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
沼田 治 筑波大学, 生命環境系, 特命教授 (50189354)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 賢太郎 筑波大学, 生命環境系, 教授 (50302815)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | テトラヒメナ / アクチン / 細胞骨格ホメオスタシス / アクチン重合阻害剤 / 転写調節 / LITAF / オートファジー / ATG8 |
Outline of Annual Research Achievements |
アクチンは重要な細胞骨格であるが、細胞内アクチン濃度の制御機構は不明である。我々は、アクチン重合阻害剤ラトランキュリンA (LA)に対するテトラヒメナの耐性獲得現象を発見した。これには、数十種類の遺伝子転写誘導とアクチン分子の活発な合成分解が伴う。この分子機構の根底には、アクチンが細胞機能を健全に発揮できるよう、最適な量と品質を感知・制御する「細胞骨格ホメオスタシス」の存在が伺えた。本研究ではテトラヒメナのLA耐性機構を調べることで、「細胞骨格ホメオスタシス」の実体を探る。本研究課題の核心は、「細胞がアクチンの量をどのように感知し、制御するか?」という問いに、LAで撹乱した状態から、テトラヒメナが適切な細胞骨格機能を回復する過程を調べ、解答を得ることである 。 研究計画1「細胞が重合してないアクチンの増加を感知し、それが一群の遺伝子の転写誘導を促すのか?」では、ACT1の単量体アクチン量の増加が、ACT2とLA耐性能獲得遺伝子群の発現誘導を引き起こすことを見つけたので、LA処理後のACT2の発現誘導のタイムコースを調べた。その結果、LA処理後20分でACT2の発現が誘導された。これはLA処理によって増加したACT1単量体が速やかに転写因子を活性化して、非常に早くACT2の発現上昇を誘導することを示す。研究計画3「アクチン量の不足を、細胞がどのように感知して、必要なアクチン量を合成するのか?」では、転写因子LITAFの関与が示唆されたので、LITAFとACT2発現上昇の関係を詳細に調べた。その結果、① LA処理後のLITAFの発現上昇はACT2より遅い。② LITAFを過剰発現しても、ACT2の急激な発現上昇は見られない。③ LITAF遺伝子の発現を抑制しても、LA処理でACT2遺伝子の発現上昇が見られた。これらの結果はLITAFがLA耐性能獲得には必要ないことを示す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究計画1では、「細胞が重合してないアクチンの増加を感知し、それが一群の遺伝子の転写誘導を促す」ことを証明した。さらに、興味深いことに、LA処理後、たった20分でACT2発現が誘導されることを見つけた。 研究計画2「アクチンの分解機構をユビキチン経路かあるいは選択的オートファジー経路か?」では、オートファジーに焦点を絞り、研究を進めた。オートファジーの発動には、ATG8が中心的な役割を担う。先行研究からテトラヒメナのATG8 遺伝子のうち、ATG8-65が細胞接合時のオートファジーに関係しているのがわかっていたが、栄養増殖期の役割や局在は不明であった。そこで、テトラヒメナの ATG8-65に蛍光タンパク質eGFPを融合し、それらの局在性を調べ、細胞内顆粒に局在することを明らかにした。次に、この遺伝子を破壊して、LA 処理後のアクチンの状態を野生株のものと比較して、アクチンの分解経路を特定する予定である。 研究計画3「アクチン量の不足を、細胞がどのように感知して、必要なアクチン量を合成するのか?」では、ACT2発現誘導に関わると予想した転写因子LITAFがLA耐性能獲得に関係ないことが分った。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は研究計画2「アクチンの分解機構をユビキチン経路かあるいは選択的オートファジー経路か?」と研究計画3「アクチン量の不足を、細胞がどのように感知して、必要なアクチン量を合成するのか?」に重点を置いて研究を進める。研究計画2では、オートファジーについては、テトラヒメナの ATG8や他の の5つのアイソフォームの各遺伝子破壊株を用いて、LA 処理 後のアクチン の状態を野生株のものと比較する。ユビキチン経路については、LA 処理細胞を プロテアソーム阻害剤で処理して、アクチン (ACT1)のユビキチン化状態について調べる。あるいは、リン酸化タンパク質の電 気泳動度が大きく変化する Phos-tag ゲルを用いて、ACT1のリン酸化の 変動を調べる。また、我々の先行研究で同定したユビキチンリガーゼやフラグミンキナーゼの遺伝子破壊株を作成し、ACT1のタンパク質量の変化や LA 耐性 能の獲得に及ぼす 影響を調べるこれらの結果から、ACT1の分解経路を特定する。 研究計画3では、LA処理後、20分でACT2発現が誘導されることから、LA処理後20分で、発現量が変動する遺伝子をRNA-seqにより網羅的に調べる。20分後に発現量が増加する遺伝子の中から転写調節因子を探し出し、ACT2発現との関係を詳細に調べる。最初に、該当する遺伝子の過剰発現によって、ACT2発現が上昇するかどうかを調べる。次に、該当する遺伝子の破壊、あるいは抑制によって、LA処理後にACT2発現の上昇が起きるかどうかを調べる。
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Causes of Carryover |
当該年度実支出額では実験補助の人件費を計上していたが、大学院生2名と卒業研究生1名が本研究計画に参画したので、実験補助人材を雇用しなかった。余った人件費と謝金は学生3名の研究経費として物品費に充当したが、当該年度実支出額は当該年度所要額に41,493円足りなかった。
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Remarks |
オルガネラ細胞生物学研究室 http://www.biol.tsukuba.ac.jp/organelle/index.html
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