2020 Fiscal Year Research-status Report
アクチン重合阻害剤に対するテトラヒメナの耐性能獲得機構の研究
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18K06204
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
沼田 治 筑波大学, 生命環境系, 名誉教授 (50189354)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中野 賢太郎 筑波大学, 生命環境系, 教授 (50302815)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | テトラヒメナ / アクチン / 細胞骨格ホメオスタシス / アクチン重合阻害剤 / 転写調節 / LITAF / YEATSファミリータンパク質 / TCXI1 |
Outline of Annual Research Achievements |
アクチンは重要な細胞骨格であるが、細胞内アクチン濃度の制御機構は不明である。我々は、アクチン重合阻害剤ラトランキュリンA(LA)に対するテトラヒメナの耐性獲得現象を発見した。これには、数十種類の遺伝子転写誘導とアクチン分子の活発な合成分解が伴う。この分子機構の根底には、アクチンが細胞機能を健全に発揮できるよう、最適な量と品質を感知・制御する「細胞骨格ホメオスタシス」の存在が伺えた。本研究ではテトラヒメナのLA耐性機構を調べることで、「細胞骨格ホメオスタシス」の実体を探る。本研究課題の核心は、「細胞がアクチンの量をどのように感知し、制御するか?」という問いに、LAで撹乱した状態から、テトラヒメナが適切な細胞骨格機能を回復する過程を調べ、解答を得ることである。 研究計画1「細胞が重合してないアクチンの増加を感知し、それが一群の遺伝子の転写誘導を促すのか?」では、ACT1の単量体アクチン量の増加が、ACT2とLA耐性能獲得遺伝子群の発現を誘導することを見つけた。さらに、LA処理後20分でACT2の発現が誘導された。これはLA処理によって増加したACT1単量体が速やかに転写因子Xを活性化して、非常に早くACT2の発現上昇を誘導することを示す。研究計画3「アクチン量の不足を、細胞がどのように感知して、必要なアクチン量を合成するのか?」では、3種類の転写因子(LITAF、YEATSファミリータンパク質、TCXI1)とACT2発現上昇の関係を詳細に調べた。しかし、3種類の遺伝子の発現を抑制しても、LA処理でACT2遺伝子の発現上昇が見られ、これら3種類の転写因子がLA耐性能獲得には関係ないことがわかった。そこでACT2遺伝子の上流に存在する転写調節領域の探索を行い、それらに結合する転写調節因子の同定を目指すことにした。現在、転写調節領域の候補となる塩基配列を3カ所発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究計画1では、「細胞が重合してないアクチンの増加を感知し、それが一群の遺伝子の転写誘導を促す」ことを証明した。さらに、興味深いことに、 LA処理後、たった20分でACT2発現が誘導されることを見つけた。 研究計画2「アクチンの分解機構をユビキチン経路かあるいは選択的オートファジー経路か?」では、オートファジーに焦点を絞り、研究を進めた。オートファジーの発動には、ATG8が中心的な役割を担う。先行研究からテトラヒメナのATG8 遺伝子のうち、ATG8-65が細胞接合時のオートファジーに関係しているのがわかっていたが、栄養増殖期の役割や局在は不明であった。そこで、テトラヒメナの ATG8-65に蛍光タンパク質eGFPを融合し、それらの局在性を調べ、細胞内顆粒に局在することを明らかにした。研究計画3「アクチン量の不足を、細胞がどのように感知して、必要なアクチン量を合成するのか?」では、LA処理後、20分でACT2発現が誘導されることから、LA処理後20分で、発現量が変動する遺伝子をRNA-seqにより網羅的に調べた。20分後に発現量が増加する遺伝子の中から2種類の転写調節因子候補者(YEATSファミリータンパク質、TCXI1)を探し出し、ACT2発現との関係を詳細に調べた。最初に、該当する遺伝子の過剰発現によって、ACT2発現が上昇するかどうかを調べた。次に、該当する遺伝子の破壊、あるいは抑制によって、LA処理後にACT2発現の上昇が起きるかどうかを調べた。しかし、これらの転写調節因子候補者はLA耐性能獲得に関係ないことが分った。既知の転写因子からのアプローチが不発であったので、ACT2遺伝子の上流に存在する転写調節領域の探索を行い、それらの転写調節領域に結合する転写調節因子の同定を目指すことにした。現在、転写調節領域の候補となる塩基配列を3カ所見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は研究計画3「アクチン量の不足を、細胞がどのように感知して、必要なアクチン量を合成するのか?」に重点を置いて研究を進める。LA処理でACT2遺伝子が発現する仕組みを明らかにするために、令和2年度に2つのことを行った。1つ目はACT2遺伝子の上流に存在する転写調節領域(Transcriptional regulatory region;TRR)の候補となる塩基配列の同定である。その結果、転写調節領域の候補となる塩基配列を3カ所、TRR1~3を見出した。2つ目は、GFPの発光でLA処理によるACT2遺伝子の発現を可視化することである。ACT2遺伝子の3’側にGFPの遺伝子をつないだACT2-eGFPをテトラヒメナに導入した細胞では、LA処理でACT2遺伝子が発現すると同時にGFPの蛍光が生じることが分かったのである。これを使って、LA処理によるACT2遺伝子発現に必要な上流の転写調節領域を決定する。その方法としては、次のようなことを計画している。最初にACT2遺伝子の上流の転写調節領域の候補TRR1~3のうち1か所を破壊したACT2-eGFPを導入したテトラヒメナを作成する。これら3種類のテトラヒメナにLAを処理して、GFPの蛍光が生じるかどうかを調べ、TRR1~3のうちどれが転写調節領域か明らかにする。次に、明らかになった転写調節領域に結合する転写調節因子を探索する。その方法は転写調節領域のDNAを用いたアフィニティーカラムを用いて、結合するタンパク質を同定することを考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナの流行のため、令和2年4月から9月まで学内立ち入りが制限され、研究計画が滞り、研究費を使用することができなかった。その結果、余剰額は953,278円となり、研究計画の延長を申請するに至った。 使用計画は消耗品費 353,278円 (内訳 試薬類 100,000円、各種抗血清 100,000円、細胞用培地 100,000円、プラスチック器具類 53,278円、計 353,278円)、人件費・謝金 200,000円 (内訳 実験補助1名×6か月 200,000円)、その他 400,000円 (内訳 RNA seq 費用 400,000円)の計 953,278円とする。
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Research Products
(2 results)