2018 Fiscal Year Research-status Report
Hippo経路エフェクターYAP/TAZの方向性を規定するシグナルの検索と解析
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18K06232
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
日笠 弘基 産業医科大学, 医学部, 准教授 (40596839)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | スクリーニングシステムの開発 / YAP/TAZ制御因子の同定 / 作用点の解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん抑制シグナルHippo経路の抑制標的である転写共役因子YAP/TAZは、活性化されると多様な組織において腫瘍形成を引き起こす反面、損傷組織の再生に必須であるという、恒常性維持と破綻の両方に関与する諸刃の剣である。それ故、通常は、Hippo経路によりYAP/TAZ活性は厳密にコントロールされていることが予想されるが、腫瘍化および再生化のそれぞれの過程において、どのような環境変化・ストレス・シグナルが、Hippo経路の抑制もしくはYAP/TAZの亢進を制御しているのかは依然未知である。そこで申請者は、その手がかりを得るために、独自開発した内在性YAP/TAZ 特異的高感度レポーターシステム、標準阻害剤キット、siRNAライブラリーを用いて、YAP/TAZを制御するシグナルや遺伝子を網羅的に検索し、複数のYAP/TAZ制御因子の同定に成功した。標準阻害剤キットの研究からは、イオノフォア、オートファジー阻害剤がYAP/TAZの活性を阻害し、DNA障害誘導剤やJAK阻害剤が活性化することを見出し、スクリーニングのストラテジーと有効性とともにこれらの成果をまとめた論文を近日投稿予定である。更に、ヒトキナーゼ、ヒトホスファターゼsiRNAライブラリーのスクリーニングにより、フコシル化糖鎖修飾の基質量を制御するキナーゼ、低栄養で活性化されるキナーゼ、炎症反応により活性化されるToll様受容体シグナル経路のキナーゼ、リン脂質代謝制御ホスファターゼ等がYAP/TAZの活性化に必須であり、更に機能未知のキナーゼがYAP/TAZを抑制することを見出した。現在、これらの同定された遺伝子の、Hippo経路およびYAP/TAZを制御する分子機構(作用点)が明らかなってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々が開発したYAP/TAZレポーターを導入したセルベーススクリーニングシステムの利便性と、それを用いた約400種のシグナル伝達阻害剤を集めた標準阻害剤キットのスクリーニングの結果をシグナルごとに分類してまとめ、そのうち細胞内外の陽イオンの変動、オートファジー、DNA障害、JAKシグナル等に関与するいくつかの興味深いシグナルに関しては、YAP/TAZのタンパク質制御機構、標的遺伝子の変動、細胞増殖への作用を明らかすることができ、近日投稿予定である。siRNAライブラリーのスクリーニングにより同定され、我々が注目している遺伝子の解析に関しては、機能阻害・亢進の両面からYAP/TAZへの作用点を解析するため、ドキシサイクリン(Dox)誘導型のshRNAやcDNAと、YREレポーター定量システムも同時に遺伝子導入したヒト細胞株を樹立した(Dox・YRE細胞)。つまり、Dox処理により効率よく遺伝子の機能を阻害・亢進でき、かつ内在性YAP/TAZの活性を定量できる実験系を手に入れることができたので、以下の(a-f)の作用点の可能性を検討している最中である。 (a) Hippo経路因子やYAP/TAZのタンパク質量や転写産物量を変化させる、(b) Hippo経路因子やYAP/TAZのリン酸化を変化させる、(c) Hippo経路の主要上流キナーゼ(MST、LATS)の酵素活性を制御する、(d) Hippo経路因子やYAP/TAZの細胞内局在を変化させる、(e) Hippo経路因子群の複合体形成もしくはYAP/TAZの転写複合体形成を制御する、(f)YAP/TAZ転写複合体の標的遺伝子への結合能を変化させる等が挙げられる。以上の可能性を検討し、同定した遺伝子によるYAP/TAZの活性制御機構の解明を目指している。
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Strategy for Future Research Activity |
同定された遺伝子の作用点が明らかにできれば、さらに上流・下流のシグナル関連因子も機能亢進・阻害させて、YAP/TAZ活性変化、YAP/TAZ依存的細胞増殖・自己複製能を調べる。これにより、上記因子が関与するシグナル・ストレスによるYAP/TAZ制御の一般性を検討する。特に、YAP/TAZ活性制御に大きなインパクトを持ち新規性が高い遺伝子はその機能を生体内で検証する。Dox・YRE細胞を、免疫不全マウスに移植するゼノグラフトによって腫瘍形成能や、腫瘍サイズあたりの腫瘍内のYAP/YAZの活性化頻度を検討する。必要に応じて、移植先のホストの栄養状態や炎症性サイトカインのレベルを変化させ比較検討する。さらに興味深い因子は機能欠損・亢進マウスを、作製し、胎生期および成体における形態形成変化、細胞増殖/細胞死、自然腫瘍形成率を検討する。また、薬剤によって障害を受けた肝臓や小腸、動脈結索を受けた心筋などの障害組織における組織再生能や、発がん剤(DMBA+TPA)やDNA障害等の発がんストレス下での腫瘍形成率等と、YAP/TAZ活性化との関連性を検討する。遺伝子改変マウスの作成にあたっては、CRISPR/CAS9システムを利用し、Rosa 26 locusに目的遺伝子を導入するコンストラクトや遺伝子欠損をさせるためのツールはすでに入手済みである。
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Causes of Carryover |
前年度分はほぼ使用した。次年度分は研究計画の通り、同定したYAP/TAZ制御因子の作用機序の解析のために必要なHippo経路関連因子の抗体や試薬の購入に当てるとともに、遺伝子改変マウスの作成と維持に使用する。
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Research Products
(2 results)