2019 Fiscal Year Research-status Report
Investigation for the role of methionine metabolism in retrotransposon repression during germ-line development of Drosophila.
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18K06240
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
林 良樹 筑波大学, 生存ダイナミクス研究センター, 助教 (30508817)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 生殖系列 / メチオニン代謝 / レトロトランスポゾン / S-アデノシルメチオニン / キイロショウジョウバエ / N6mA修飾 / エピゲノム / 老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
ショウジョウバエ卵形成過程におけるS-アデノシルメチオニン(SAM)の産生抑制が、レトロトランスポゾンの抑制を司る仕組みを明らかにすることを目的としている。昨年度までに、生殖系列においてはSAM合成酵素(Sam-S)の発現が抑制されているためにSAMの産生が抑制されていること、このSAMの産生抑制は生殖系列のゲノムDNAのメチル化修飾(N6mA修飾)を低く保つことで、レトロトランスポゾンの発現を転写レベルで抑制していることが示唆された。これに加えて、生殖系列におけるSAMの産生抑制は、卵形成能の老化を遅延させることに寄与することを示唆する結果を得た。このような結果を受けて、本年度は以下の研究を行なった。 1:生殖系列におけるSAMの産生抑制がレトロトランスポゾン以外の遺伝子発現に与える影響を明らかにするために、野生型およびSam-S強制発現体の卵巣に対するRNA-Seq.解析により遺伝子発現を比較した。その結果、Sam-Sの強制発現によって生殖系列の発生に関与する遺伝子の発現変動はほとんど起きないことが明らかとなった。この結果は、SAMの産生抑制の主要なターゲットはレトロトランスポゾンであることを示唆している。 2:SAMの産生制御が卵形成能を老化させる仕組みを明らかにするために、加齢に伴うSam-Sの発現変化を調べた。その結果、卵巣の加齢に伴いSam-Sの発現は上昇すること、さらにSam-Sの機能阻害により、卵巣の加齢に伴うSAMの上昇は緩和されることが明らかとなった。以上の結果は、卵巣の加齢に伴うSAMの上昇は、加齢に伴うSam-Sの発現上昇により引き起こされること、Sam-Sの発現抑制の仕組みの異常が卵巣の老化の主要原因であることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、本年度に行ったRNA-Seq.による遺伝子発現解により生殖系列におけるSAMの産生抑制の主要な役割はレトロトランスポゾンの抑制であることが明らかとなった。またレトロトランスポゾンの抑制にあたっては、メチル基供与体であるSAMの欠乏が、遺伝子発現の亢進に寄与するゲノムDNAのメチル化修飾(N6mA修飾)を低く保つことによってなされるということが概ね明らかとなった。 これに加えて、トランスポゾンの抑制の意義を深める結果として生殖系列の老化遅延を見出している。本年度はこの現象をさらに解析することで、ショウジョウバエの卵形成能の老化は、加齢に伴い生殖系列におけるSam-Sの発現抑制が緩みSam-Sの発現上昇が起きることで、SAMが増加することが主要な要因であることを見出している。本成果は、組織老化の新規要因として代謝物質であるSAMの増加がありえるという可能性を示唆していた。そこで共同研究により、哺乳類の組織においてもSAMの加齢に伴う含有量変化を計測したところ、哺乳類各組織においても加齢に伴うSAMの増加が認められた。本成果は、SAMは動物種や組織を超えた加齢要因であることを強く示唆している。今後は、SAMによる組織老化の促進がレトロトランスポゾンの発現上昇を介しているのか、あるいは別の要因に影響を与えることによりなされるのかを検討することで、SAMによるトランスポゾン抑制の意義をより深く解析することも本研究の延長線上にある目的の一つであると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的であるSAMの産生抑制によるレトロトランスポゾンの抑制の仕組みについては、主にSAMの欠乏がレトロトランスポゾンに対するN6mA修飾の抑制を招くことによりなされているということが明らかとなっている。最後に必要なデータとして、レトロトランスポゾンの発現制御領域(プロモーター配列等)に対するN6mA修飾が、実際にレトロトランスポゾンの発現上昇を誘発するかについての検証がある。この点を検証し次第、速やかに論文投稿に結びつける。 一方、トランスポゾンの抑制の意義の一つとして、SAMの産生抑制が組織老化を遅延に関与することが明らかになりつつある。上述のように本年度までに加齢に伴うSam-Sの発現上昇が組織老化を引き起こす主要要因であることが示唆されている。そこで今後は、加齢に伴うSam-Sの発現上昇が起きる原因の探求や、SAMの上昇が加齢を引き起こす仕組みの解明を推進する必要がある。本研究は、これまで未解明であった組織老化の仕組みにおいてSAMが重要な役割を果たすことを示すものであり、哺乳類の結果も含めて成果を取りまとめ、特許出願に結びつけていくことを計画している。
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Causes of Carryover |
本研究をサポートする目的での組織間共同利用研究費等が獲得でき、研究の推進に必要であり、かつ費用が高額であった次世代シーケンサー等の費用を共同利用研究費等で賄うことができたために本年度に使用した物品費等の支出が想定よりも少なく済んだ。このような予算は、現在見出しているトランスポゾン抑制が生殖系列の老化抑制に寄与するかという本研究の意義を深める研究の推進のために次年度以降使用する。
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Research Products
(7 results)