2018 Fiscal Year Research-status Report
昆虫クチクラに複数体節をまたぐ「切取り線」を形成するメカニズム
Project/Area Number |
18K06243
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小嶋 徹也 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (80262153)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ショウジョウバエ / 昆虫 / クチクラ / 切取り線 / 囲蛹殻 / Notch |
Outline of Annual Research Achievements |
昆虫を含む節足動物の体表面は、表皮細胞から分泌される細胞外マトリックスであるクチクラに覆われている。脱皮の際には古いクチクラの下に新しいクチクラがつくられ、古いクチクラが脱ぎ棄てられるが、古いクチクラはランダムに破れるのではなく、「切取り線」となる決まった部位から開裂する。また、「切取り線」は複数の体節にまたがって形成される。本研究では、ショウジョウバエが羽化する際に開裂する囲蛹殻の「切取り線」であるoperculum ridgeの形成メカニズムについて、operculum ridge形成細胞で活性化しているNotchシグナルに着目して解析し、クチクラに「切取り線」をつくる構造的・時間的・空間的なメカニズムの解明を目指した。 3齢幼虫後期のクチクラについて、TwdlD-RFPによるepicuticleの標識およびprocuticleのキチン染色、さらには透過型電子顕微鏡による詳細な観察をしたところ、Notch活性化細胞直上のクチクラでは、キチン染色されない不明確な構造がprocuticleに観られ、電子密度が高くTwdlD-RFPが強く局在する構造がepicuticleおよびepicuticle直下のprocuticle領域に観られるなど、周囲とは明らかに異なる特殊な構造をしていた。また、Notchシグナルの阻害や異所的な活性化実験により、Notchシグナル活性化細胞によってこの特殊構造が形成されることで、「切取り線」として機能するoperculum ridgeが形成されることが示唆された。さらに、Notchシグナルの活性化とoperculum ridgeの特殊構造形成についての経時的な観察から、operculum ridgeの特殊構造は3齢幼虫のクチクラの形成開始時点からすでに形成されており、少なくとも一旦形成したクチクラを壊して作られるわけではないこともわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度では、operculum rigdeの構造や形成過程について重点的に解析し、operculum ridgeの特殊な構造を明らかにできた。また、その構造とNotchシグナルの関係、「切取り線」としての機能との関係、その構造ができる過程も明らかとなり、operculum ridgeの形成過程の一端が解明できてきた。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和元年度では、前年度の結果を受けつつさらにoperculum ridgeの構造を他のクチクラタンパク質の局在などを観察することで詳細に明らかにしてゆく。また、過去にGlucose dehydrogenase(Gld)がoperculum ridge直下の細胞で活性化しておりGldの突然変異体では羽化できないことが報告されており、平成30年度ではその結果を再現することもできた。そこで、Gldとopreculum ridge特殊構造形成の関係やNotchシグナルとGldの関係などを詳細に解析することを中心に、Notchシグナルの活性化によってoperculum ridge特殊構造の形成メカニズムの解明を目指す。
|
Causes of Carryover |
(理由) operculum ridgeの構造や形成過程やNotchシグナルとの関係については、概ね当初の予定どおり順調に研究を進めることができたた。一方で、Notchシグナル下流でoperculum ridgeが形成される具体的なメカニズムの解明については、Gldの関与が浮上したために過去の報告の確認をとることを優先したため、当初予定していた抗体や染色剤、ショウジョウバエ系統の一部が必要なくなった。一方で、過去のGldの報告については確認が取れたため、令和元年度ではGldとoperculum ridgeやNotchシグナルとの関係を重点的に解析することとした。 (使用計画) Gldに関する解析をするための抗体や染色試薬、ショウジョウバエ形質転換体の作成、ショウジョウバエ系統の飼育などに使用する。
|
Research Products
(2 results)