2019 Fiscal Year Research-status Report
昆虫クチクラに複数体節をまたぐ「切取り線」を形成するメカニズム
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18K06243
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小嶋 徹也 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (80262153)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 昆虫 / クチクラ / 切取り線 / 囲蛹殻 / 羽化 / Notch / Gld / thawb |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ショウジョウバエの羽化時に開裂する囲蛹殻の「切取り線」であるoperculum ridgeについて、Notchシグナルを中心に解析し、クチクラに「切取り線」をつくる構造的・時間的・空間的なメカニズムの解明を目指している。 前年度に引続き、operculum ridge (OR)構造の詳細を知るため、クチクラ・タンパク質のObstractor-E (Obst-E)とCuticular protein 11A (Cpr11A)の局在様式について、Obst-E-GFPとCpr11A-GFPを用いて観察したところ、ORでは、Notchシグナル依存的に、Obst-Eは周囲よりも強く局在し、Cpr11Aは周囲とは異なり局在が消失することがわかった。 既存のGAL4系統を探索し、OR特異的なGAL4系統を見出し、それらを用いた、ORへの関与が想定されていたGldのRNAi解析により、ORでのGld活性の重要性が示された。Gld変異体でのOR構造の解析から、キチン染色やTwdlD-RFPとObst-E-GFPの局在はほぼ正常だが、Cpr11A-GFPがORに局在するようになることがわかった。さらに、GldのORでの活性は、Notchシグナルに依存することも突き止めた。これらのことから、Notchシグナルの機能の一部はGldが担うことや、Gldは一部のクチクラ・タンパク質の局在を制御していることが示唆された。 さらに、羽化できない変異体として知られていたtrapped (ted)について、遺伝学的な解析から原因遺伝子を3つに絞り込み、それぞれのE(spl)m3-GAL4やGld-GAL4を用いたRNAi解析およびted変異体のゲノム・リシーケンスから、tedはthawb (thw)の変異体であることを突き止めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度では、operculum rigdeの構造や形成過程について、その特殊な構造をさらに明らかにでき、様々なクチクラ・タンパク質の局在がoperculum ridge特異的に制御されるために、「切取り線」として機能する特殊構造が形成されることが見えてきた。また、その特殊構造の形成では、Notchシグナルがおそらく最上位で働いており、Gldなどの中間標的遺伝子の活性を制御していること、中間標的遺伝子はそれぞれ制御するクチクラ・タンパク質が異なることなどが明らかになり始めている。したがって、「切取り線」としての機能するoperculum ridgeの構造や形成メカニズムについての理解が一層深まってきている。 一方、operculum ridge形成に必須の遺伝子とした新たにthwを同定することができ、今後、この遺伝子について解析することで、operculum ridgeの構造や形成メカニズムについてのさらに深い理解が得られると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度では、これまでの結果を受けつつ、operculum ridgeの構造をさらに他のクチクラタンパク質の局在などを観察することで詳細に明らかにしてゆく。また、thwについて、その発現や局在の様式、機能、NotchシグナルやGldとの関係などを解析することで、operculum ridge形成過程におけるカスケードを明らかにする。 さらに、ショウジョウバエでの知見を踏まえ、他の昆虫での「切取り線」の構造や形成メカニズムについて可能な限りアプローチし、昆虫を含む節足動物にとって死活問題の一つである「切取り線」について、進化的な側面からの理解も目指す。
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Causes of Carryover |
operculum ridgeの構造や形成過程やNotchシグナルとの関係、Gldに関連する解析については、概ね予定どおり順調に研究を進めることができた。一方で、operculum ridge形成に関与する遺伝子としてthwが新たに浮上したが、thwの解析を充分に行うためには、抗体や染色剤、ショウジョウバエ系統の作成や取り寄せなどを2020年度に新たに行う必要性が予測された。そのため、予定していた2019年度使用額の一部を2020年度に使用することとした。 元々予定していた抗体や染色試薬、ショウジョウバエ形質転換体の作成、ショウジョウバエ系統の取り寄せ、ショウジョウバエ系統の飼育の費用や学会参加費用、論文投稿費用に加え、thwに関する解析をするための抗体や染色試薬、ショウジョウバエ形質転換体の作成、ショウジョウバエ系統の取り寄せ、ショウジョウバエ系統の飼育などにも使用する。
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Research Products
(2 results)