2019 Fiscal Year Research-status Report
脂肪酸がシグナルとして個体成長を促進するメカニズムの解明
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18K06246
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福山 征光 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 講師 (20422389)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 線虫 / 脂肪酸 / 分子遺伝学 / 成長 / アミノ酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに、野生型では成長停止をするような脂肪酸が欠乏した条件下でも、わずかではあるが成長することができる変異体を単離同定していた。そのうち4系統の原因遺伝子は、ヒトのHHAT(ヘッジホッグアシルトランスフェラーゼ)およびHHATL(HHAT like)のオルソログをコードすることを見出した。HHAT/HHATLはヘッジホッグをもたない酵母から保存されており、ヘッジホッグへのパルミチン酸転移反応以外にも機能を有する可能性が示唆されてきた。これまでに、エタノールや脂肪酸を投与した野生型の線虫を微分干渉顕微鏡下で観察すると、脂肪滴と推測されるものを認めていた。そこで、Oil Red O染色をおこなうと、エタノールを投与した野生型線虫では、Oil Red O染色陽性の脂肪滴が観察されたが、栄養源を投与しない線虫や必須アミノ酸のみ投与した線虫では、脂肪滴の形成は全く認められなかった。それに対して、hhat-2変異体では、必須アミノ酸を投与しても、脂肪滴の蓄積が認められた。このhhat-2変異体における脂肪滴の形成は、必須アミノ酸投与を必要とする。以上の知見より、必須アミノ酸投与とhhat-2機能阻害の組み合わせは、野生型における脂肪酸投与時の代謝パターンを模倣することが示唆された。 さらに、RNAseq解析により、必須アミノ酸を投与したhhat-2変異体では、複数の脂肪酸生合成酵素群の発現が亢進することを見出した。また、レポーター遺伝子をもちいた解析により、それらの脂肪酸生合成酵素群のうちの2つは、腸で発現が亢進することを見出した。一方で、hhat-2遺伝子は、腸ではなく、頭部の神経細胞群で発現していることも見出した。以上より、神経におけるhhat-2と食餌中のアミノ酸が、腸の脂質代謝を調節する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は変異体群の原因遺伝子を同定し、発現組織を決定することができた。さらに、変異体で、脂質生合成に関与する酵素をコードする遺伝子群の発現が亢進することも認められた。この知見は表現型の一つである、脂肪滴生合成の亢進を説明しうるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
同定した下流因子群である脂質生合成酵素群が、hhat-2変異体における脂肪滴の生合成亢進や成長促進に寄与するか否か、遺伝学的解析を中心にすすめる。また、これらの脂質生合成酵素群が食餌中の脂質やアミノ酸、あるいはその組み合わせに応答した発現制御を受けているのか、hhat-2がその栄養応答性に寄与するのか否かを検討する。培養細胞では、大部分の"carbon mass"が、培地中のグルコースではくグルタミン酸以外のアミノ酸に由来することが近年示されている(Dev Cell 2016)。一方で、孵化後の線虫にアミノ酸を投与しても、脂肪酸あるいはその前駆体であるエタノールの非存在下では、顕著な成長促進作用を認めない。今後、今回同定した脂質生合成酵素群の発現制御機構やhhat-2との関係を明らかにすることで、食餌中の炭素源を、個体成長へと割り振るメカニズムの解明を目指したい。
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Causes of Carryover |
培地や使い捨てシャーレなどの消耗品費の支出が見積もりよりやや少なかったので次年度使用額が生じた。
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