2019 Fiscal Year Research-status Report
動植軸と左右軸の決定機構を単純な脊索動物を使って理解する
Project/Area Number |
18K06256
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小沼 健 大阪大学, 理学研究科, 助教 (30632103)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | オタマボヤ / 脊索動物 / 動植軸 / 左右非対称性 / 背腹 / Bmp / Nodal / Ca2+ |
Outline of Annual Research Achievements |
胚発生における重要なイベントに、3つの胚軸 (動植軸、それに直行する軸、左右軸)の決定がある。本研究では、脊索動物であるオタマボヤの特徴を活用して、(1)動植軸と (2) 左右軸ができるしくみの解析を進めている。本年度の成果を概説する。 (1) 動植軸が決定するしくみ 動物半球と植物半球においてsingle cell RNA-seqを行いリストアップした母性mRNAを調べて、8細胞胚の植物半球後方に局在するmRNAを5つ見出している。おもしろいことに、そのうちの一つは、未受精卵の段階から植物半球側に局在していることが分かった。これを手がかりに、動植軸ができるのかを調べる準備を進めた。具体的には、卵巣のパラフィン切片をつくりin situ hybridizationを行う条件を整えた。 (2) 2細胞期を起点とする左右非対称形成 オタマボヤの左右非対称形成は、ホヤや脊椎動物で知られるものとは異なる。たとえば1世紀前から、初期胚発生 (2-4細胞期)から左右非対称性がみられることが報告されている。また幼生の神経索が、背側ではなく左側に存在している。このユニークな左右性の実体を調べ、「左側決定因子であるNodalがゲノムにないこと」「Bmp遺伝子がCa2+オシレーションに依存して「右側に」発現すること」「Bmpの発現細胞は胚の右側からつくられること」また「Bmpシグナルが右側で神経マーカーの遺伝子発現を抑えること」などを明らかにした。本年度はこれらをまとめて、学会・論文発表を行った。 脊椎動物の胚では、Bmpは「腹側化因子」として働き、神経形成を抑制することで背腹軸の形成にかかわる。他方、オタマボヤの場合は、このBmpによる背腹形成の経路が「約90度回転して働く」ことで、左右性の形成に転用される (いわゆるco-optionの一例とみなせる)という仮説を提唱した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1) の動植軸ができるしくみについては、8細胞胚の植物半球後側 (B割球)に局在する母性mRNAがあるという知見をさらに推し進め、未受精卵の段階で植物半球に局在する母性mRNAがあることを見出した。さらに卵巣の切片をもちいたin situ hybridyzationの開発も進めた。
(2) の左右軸の決定については、当初の研究計画を概ね完了した。Delsman博士が110年前に記載した現象を掘り起こすことにより、「Bmpによる背腹形成を転用 (co-opt)することによる左右形成」という概念を提唱した (PNAS誌に掲載)。これはオタマボヤをもちいたからこそ明らかになったことであり、「オタマジャクシ型発生を保持して、どのように単純な体を実現しているのか?」という、発生学や進化学における重要な問いに対する一つの答えともいえる。この課題は準備期間を含めると、完成までにほぼ7年を費やした。この成果によって、左右非対称形成についての新しい研究領域が誕生したといえる。
以上を踏まえ、当初の計画以上の進展と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度もこれらをさらに進めていく。具体的には、以下を行う。
(1) 動植軸の形成過程の解析。すべての動物で、動植軸は未受精卵の段階で存在している。卵巣における母性mRNAの局在をin situ hybridizationなどにより調べることで、卵形成過程で、いつ、どのように動植軸が形成されていくのかを調べる。オタマボヤのライフサイクルは5日と短く、卵成熟は実質半日ほどで完了するので、解析に適しているといえる。 (2) 左右性形成については、「2-4細胞期にかけて割球がずれるしくみ」「右側・左側でどのように遺伝子発現の違いが生じるのか」という問題にアプローチしていく。
ただし、コロナウィルスの影響により、大阪大学での研究活動は数ヶ月にわたり停止状態にある (05/02/2020現在)。復旧にはまだ時間を要すると考えられるため、これによる計画の遅れも考慮した上で、研究を進める必要があるだろう。
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Causes of Carryover |
当初予定していた物品費や旅費などについては他の財源を充当したため、次年度使用額が生じた。 研究計画の各項目については、予定どおり又は前倒しで進んでおり、とくに左右性の解析については当初の計画以上の進展がみられ、それらをさらに深める段階まで進んでいる。次年度使用額はこれらの活動で得られた成果発表のための旅費、英文校閲費、出版費に充当する予定である。 ただし、現段階では (5/2/2020現在) コロナウィルスの影響により、所属研究機関では研究活動の停止を余儀なくされている。その再開後の研究活動でもこれらの次年度使用額を充当する予定である。
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Remarks |
(1)(2)オタマボヤの左右非対称性についての研究成果のプレスリリース。 日経産業新聞 (2020年2月27日号)、日経サイエンス (2020年6月号)にて紹介記事。さらに毎日新聞、北海道新聞、Yahooニュース、Exciteニュース、Science Magazineなど、国内外の30以上のニュースサイトに取り上げられた。 (3)は胎生魚ハイランドカープが「妊娠」するしくみについての共同研究。
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Research Products
(26 results)
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[Journal Article] ANISEED 2019: 4D exploration of genetic data for an extended range of tunicates.2020
Author(s)
Dardaillon J, Dauga D, Simion P, Faure E, Onuma TA, DeBiasse M, Louis A, Nitta N, Naville M, Besnardeau L, Reeves W, Wang K, Fagotto M, Gueroult-Bellone M, Fujiwara S, Dumollard R, Veeman M, Volff JN, Roest Crollius H, Douzery E, Ryan J, Davidson B, Nishida H, Dantec C and Lemaire P
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Journal Title
Nucleic Acids Research.
Volume: 48(D1)
Pages: D668-D675.
DOI
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