2020 Fiscal Year Research-status Report
原腸形成期の内胚葉は分泌性因子によって内臓中胚葉を誘引する
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18K06258
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
村上 柳太郎 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (40182109)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 原腸形成 / 内胚葉 / 内臓中胚葉 / 部域分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度までの研究によって、原腸形成期の内胚葉で発現する遺伝子と中腸形成との関連を主に調べた結果、paraHOX 遺伝子の一つである cad が後方内胚葉で特異的に発現していることを見出し、重点的に解析を行っている。cad は未受精卵の段階で母性の発現が卵細胞全体に見られ、受精後は前方から mRNA の分解が進む。その後、陥入後の後方内胚葉で接合子性の発現が開始する。接合子性の cad 発現が起きない cad 変異ホモ胚では、後方内胚葉の一部が、前方内胚葉に転換することがわかった。さらに、cad を陥入中の内胚葉全体に強制発現すると、前方内胚葉が後方内胚葉に転換することもわかった。後方内胚葉に隣接する後腸領域では、母性の cad 発現と接合子性のcad発現が連続して見られており、両者の発現を無くした胚では後腸の形成が異常となることが報告されているが、後方内胚葉については原腸形成過程での形態的異常が見られず、その役割は知られていなかった。上記の結果は、接合子性の cad 発現によって、後方内胚葉の部域分化が誘導されることを示す最初の知見である。後方内胚葉は、形態的に第3チェンバーと第4チェンバーに大きく分かれるが、その違いを産む遺伝子について現在検討しており、EGFR シグナルと DPP シグナルによって第3と第4の境界位置が変化する結果が得られており、今後はこの点に着目して後部内胚葉の部域分化についても検討を進めるとともに、内胚葉で発現する cad が原腸形成期の内臓中胚葉に与える作用についても検討を進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ショウジョウバエの原腸形成において、未受精卵全体で発現し、受精後は前方から mRNA が消失する母性のcadと、後腸予定域で母性発現と連続的に発現する接合子性の cad については、後腸部の形成が異常となることが報告されていたが、その後、内胚葉で発現し始める cad についての研究は皆無だった。本研究計画は内胚葉側から中胚葉に対する作用の解析が中心課題だったが、当初着目して研究を進めていた Ance 変異系統が、実は別の座位の変異を伴うことがわかり、研究の見直しが必要となり、計画の一部だった内胚葉の遺伝子発現に重点を移したことが、遅れの最大の要因だった。しかし、その過程で 内胚葉で原腸形成期で発現する接合子性のcad が、後方内胚葉の分化を決定することが明らかとなり、原腸形成機構解明の有力な糸口となる可能性が高い。そこで現在はこの成果に基づいて研究を進めている。また、2020年度はコロナ対応による業務に追われ、研究に費やす時間が十分に確保できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
cad 遺伝子は母性での発現が卵後半に多く、この領域は内胚葉だけでなく内臓中胚葉、外胚葉の全てを含むものである。しかし内胚葉でその後発現する接合子性の cad は、ホモ変異胚、陥入後の内胚葉での cad 強制発現胚とも、明確な表現型が得られることから、作用時期が原腸形成の中期以降であると予想される。さらに、原腸形成期の中・後期に内臓中胚葉と内胚葉が合体して中腸原基となると、中央部の内臓中胚葉から出される分泌性シグナル因子 DPP が中腸中央部の分化(胃に相当)することも明らかとなった。DPP の作用は、cad の活性とは拮抗的で、そのバランスで中腸部域分化のパターンが生じる、という仮説に基づいて関連遺伝子のスクリーニングを含め、今年度の研究を進める予定である。
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Causes of Carryover |
当初重点的に研究していた突然変異が、目的座位とは別の変異であることが判明し、研究計画を内胚葉遺伝子に重点を移したことで研究計画全体の進行が遅れ、さらにコロナ対応業務の影響によっても遅れが生じ、当初、研究で使用する予定であった核酸解析用の試薬類の購入額が少なくなったこと、さらに、研究成果発表を行う予定だった国内外の学会が中止となったことで、旅費を使わなかったことで、経費の繰越しが生じた。繰越金は当初の計画に沿った核酸試薬類の購入と学会参加の旅費に使う予定である。
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Research Products
(4 results)
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[Book] 動物の事典2020
Author(s)
末光隆志 編集
Total Pages
772
Publisher
朝倉書店
ISBN
978-4-254-17166-2