2020 Fiscal Year Research-status Report
光合成の強光耐性におけるタンパク質合成系の順化機構の役割
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18K06276
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
西山 佳孝 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (30281588)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 環境 / ストレス / タンパク質 / 遺伝子 / 光合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803株を強光下で生育させると、光化学系II(PSII)の強光耐性が増大する。この強光順化の過程で細胞内に種々のカロテノイドが高蓄積するが、このうちゼアキサンチンやエキネノンなどがPSIIを光阻害から保護する働きを担うことがこれまでの研究で明らかになっている。これらのカロテノイドを欠損した変異株でも強光順化によってPSIIの強光耐性がある程度増大していたことから、この株に蓄積していたカロテノイド配糖体デオキシミキソール(ミキソールフコシドの前駆体)が強光順化に関与することが示唆された。そこで本研究では、強光順化におけるカロテノイド配糖体ミキソールフコシドの役割を解明することを目的とした。ミキソールフコシドを欠損した変異株、ミキソールフコシド、ゼアキサンチン、エキネノンを欠損した三重変異株を作製し、PSIIの光阻害を解析した。その結果、これらの変異株ではPSIIの光阻害が著しく促進した。しかし、リンコマイシン存在下でPSIIの光損傷を解析したところ、いずれの変異株でも野生株との間に差が見られなかった。したがって、ミキソールフコシドは強光下でPSIIの修復を保護する作用があることが示唆された。また、これらの変異株を強光下で培養しても、PSIIの強光耐性はほとんど増大しなかった。以上の結果から、強光順化によるミキソールフコシドの高蓄積がPSIIの保護に重要な役割を担っていることが示唆された。 植物の強光順化に関する研究では、酸化標的システイン残基を改変した葉緑体EF-Tuを過剰発現させることによって、PSIIの強光耐性が増大することが確認できた。シアノバクテリアと同様、タンパク質合成の酸化傷害がPSIIの光阻害を促進する要因の一つであることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シアノバクテリアを用いた研究では、強光順化に伴うカロテノイドの変化と光合成の強光耐性の関係が明らかになってきた。その成果を論文にまとめ、国際専門誌Frontiers in Plant Scienceに掲載された。植物を用いた強光順化研究も、データがまとまりつつあり、今年度中に論文化できる目処が立った。このように研究は概ね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によって、光合成の強光順化に翻訳因子EF-Tuの誘導および特異的なカロテノイドの蓄積が重要な役割を担っていることがわかってきた。しかし、この2つの要因の関係がまだ不明確である。次年度は、強光順化におけるEF-Tu誘導とカロテノイド蓄積の関係を明らかにしたい。また、今年度の研究によって、ミキソールフコシドというカロテノイド配糖体が光合成の強光順化に重要な役割を果たすことがわかってきた。この特殊なカロテノイドの機能や局在性を明らかにする必要がある。
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Causes of Carryover |
シアノバクテリアおよびシロイヌナズナにおける光合成の強光順化研究は、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、当初の予定より4ヶ月程度遅れた。次年度には、今年度十分に解析できなかったタンパク質合成の解析を中心に計画を実行する予定である。解析に必要なアイソトープや試薬など消耗品の購入を計画している。
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Research Products
(15 results)