2019 Fiscal Year Research-status Report
高いCO2吸収能力と乾燥耐性の両立を可能とする気孔応答の最適化メカニズム
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18K06294
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
楠見 健介 九州大学, 理学研究院, 講師 (00304725)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
祢宜 淳太郎 九州大学, 理学研究院, 准教授 (70529099)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イネ / CO2 / 気孔 / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では、植物が、環境の変化に応じて、気孔を介したCO2吸収と水蒸散のバランスをどのように調節し最適化しているのかを調べ、気孔制御の改変が環境 適応能力の強化につながるかを検証する。そのために気孔閉鎖制御のキー因子である陰イオンチャネルタンパク質SLAC1を分子ツールとして、ジーンターゲティ ングの手法により、イネSLAC1のCO2シグナルと乾燥シグナルの推定受信部位を個別に改変したゲノム編集株を作製し形質の評価を行う。 本年度は、昨年度に引き続き、作成したジーンターゲティング用のプラスミドベクター(GTベクター)の、イネへの導入を進めた。SLAC1遺伝子のCO2シグナル受信部位(Y256、Y473)CO2と乾燥の両方の応答に必須の部位(G207)、およびチャネルゲート部位(F461)をそれぞれ改変した3種類の改変SLAC1クローンを薬剤耐性マーカーと共にpKOD4バイナリベクターに組み込み(GTベクター)、アグロバクテリウムを介してイネ台中65号の二次カルスに導入した。その後薬剤耐性を利用して改変SLAC1が組み込まれたカルスを選抜し、その中から組み替えを起こしたカルス(GTカルス)をPCRにより選抜した。これまでに、3つの系統で合計約1200個の薬剤耐性カルスを選抜し、F461の改変系統(slac1F461A)において2系統のGTカルスを得た。また、イネslac1変異株、およびslac1変異株に改変型SLAC1を導入した相補株を用いて、 それらを九州大学環境シミュレータ内で栽培しガス交換を測定し、CO2および乾燥応答の差を最も顕著に検出できる条件を調べた。その結果、野生株とslac1変異株の間で気孔応答の差が最も大きくなる分げつ期において、相補株の導入系統間の差も最も大きくなることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ジーンターゲティング(GT、相同組み換え)クローンの確立とイネカルスへの導入は概ね順調に進展している。イネslac1変異株、およびslac1変異株に改変型SLAC1を導入した相補株を用いた、栽培条件の絞り込みも予定通り進め、評価基準が確立しつつある。ただし、本年度中に目指していた、GT改変系統の確立には至らず、GTカルスの選抜過程に留まっている。GT系統の確立における、現時点での問題点として、GTカルスの出現頻度が当初の予想よりも非常に低いことが挙げられる。GTによる変異の導入法は農研機構で開発されたものだが、ポジティブ選抜マーカーであるハイグロマイシン耐性を持ったカルスのうち、GTカルスの頻度は、これまでの報告では約1/100程度だが、その1/6(1/600-1/1000)に留まっている。GTカルスの出現頻度が低い原因として、PCR選抜の効率の悪さと導入に用いたイネの系統を考えている。前者については、原理的にPCRの増幅範囲が約4kbpと非常に大きくならざるを得ず、ゲノム領域の構造によっては検出が困難であることが挙げられる。既に得られているGTカルスDNAを用いたPCR条件の再検討を進めている。後者については、本研究で用いている台中65号に加えて、GT法が開発された農研機構で用いられている日本晴を用いた導入を並行して進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
GT系統については、本研究の主材料であるSLAC1遺伝子のCO2シグナル受信部位(Y256、Y473)を改変した系統に重点を置いて確立を急ぐ。また、改変効率を上げるために、PCR条件の改善を引き続き進めるほか、これまで用いてきたイネの系統である台中65号に加えて、これまでGT法で用いられてきた日本晴を用いた導入も進める。確立した系統から九州大学環境シミュレータ内でそれらの形質評価を行う。
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Causes of Carryover |
交付申請書に記載した研究計画では、相同組み換えの系統が確立した場合に、環境シミュレーターでの植物体の栽培や、ガス交換装置を用いた気孔応答の検証に移行する予定であった。しかし実際には、相同組み換えの系統の確立に至らなかったため、これらの実験に用いる予算を次年度に使うことにした。
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Research Products
(4 results)