2020 Fiscal Year Research-status Report
母性遺伝における父方ミトコンドリアDNAの選択的分解に関わる分子メカニズムの解明
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18K06313
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
佐々木 成江 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (20359699)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 母性遺伝 / ミトコンドリア / 父方選択的分解 / ヌクレアーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
ミトコンドリアの「母性遺伝」は、様々な真核生物に共通に見られる現象である。母性遺伝の過程において、DNAヌクレアーゼによる父方のミトコンドリアDNA (mtDNA)の選択的な分解は母性遺伝の引き金となる非常に重要なステップである。本研究では、大型のミトコンドリア核様体を持ち、高純度なミトコンドリア単離が可能な真正粘菌を用い、mtDNAの選択的分解に関わる分子メカニズムの解明を目指している。これまでに、我々は、単離ミトコンドリアを用い、semi-in vitroで母性遺伝を再現する系を確立し、父方mtDNAの選択的分解に関与するヌクレアーゼはMgイオン要求性で、至適pHは7.5-8.0であった。また、線虫において母性遺伝に関わているEndonuclease G(CPS-6)と相同性が高いヌクレアーゼ(PpEndG-like)を真正粘菌から同定し、性情解析を行った結果、 Mg、Mn、Coイオンでも活性があり、至適pHは5.5-6.5と異なっていた。通常、Endonuclease Gはミトコンドリア膜間に局在し、線虫では受精後ミトコンドリアの内膜が崩壊することで、マトリクス内に流入してmtDNA分解を引き起こすと考えられている。今回、真正粘菌においてmtDNA分解にミトコンドリア内膜崩壊が関わっているのかを明らかにするために、ミトコンドリア膜電位をモニタリングできる染色試薬TMREを用いて解析した。アメーバ細胞をTMRE染色し、接合させたところ、mtDNAが消失し始める細胞混合後3時間目において膜電位の消失は観察されなった。よって、粘菌ではmtDNA分解にミトコンドリア内膜崩壊は関与していないことが分かった。また、膜電位の消失は完全にmtDNAが消去されたミトコンドリアでしか観察されず、mtDNAが完全消失がミトコンドリア内膜崩壊に関与している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに、MS解析により接合子のミトコンドリアから、9種類のDNAヌクレアーゼを同定してきた。それら9種類のヌクレアーゼは、母性遺伝が生じない時期の 細胞からも同定されたことから、ヌクレアーゼの有無により父方mtDNAの選択的分解が制御されていないことが推測される。また、semi-in vitroで母性遺伝を再 現する系を開発し、母性遺伝に関わるヌクレアーゼはMgイオン要求性である可能性が見いだされた。さらに、細胞混合後3時間目から単離したミトコンドリアでは、semi-in vitroでmtDNA分解が生じるが、細胞混合後2時間目から単離したミトコンドリアで生じないことから、2時間目と3時間目の間で母性遺伝に関与するヌクレアーゼの制御が起きていることが示唆された。また、線虫で母性遺伝に関わっていると報告されているEndonuclease Gやミトコンドリア内膜の崩壊も、真正粘菌の母性遺伝には関与していないと考えられる。さらに、mtDNAが完全消失がミトコンドリア内膜崩壊に関与している可能性も示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
①母性遺伝に関与するヌクレアーゼの活性化が生じる時期と予測された細胞混合後2時間目から3時間目のミトコンドリアの比較プロテオミクス解析を行い、ヌクレアーゼの活性を制御する因子候補の探索を行う。 ②接合子のミトコンドリアに含まれる9種類のDNAヌクレアーゼの中で、マグネシウムイオンを必要と報告されているヌクレアーゼ5種類に関して、ヌクレアーゼ の性情解析を行う。 ③真正粘菌におけるCRISPR/Cas9システムを用いた遺伝子破壊法を確立し、母性遺伝を担うDNAヌクレアーゼの特定を行う。 ④上記解析で得られた制御因子候補について遺伝子破壊を行い、母性遺伝が破たんするかを解析し、DNAヌクレアーゼが接合後の父方ミトコンドリアのみで働く ための制御因子を特定する。
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Causes of Carryover |
非常事態宣言により、研究進行が遅延したため。
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