2019 Fiscal Year Research-status Report
非緑色プラスチド独自の形態維持機構:ストロミュール過剰形成変異体を用いた解析
Project/Area Number |
18K06314
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
伊藤 竜一 琉球大学, 理学部, 准教授 (50322681)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | プラスチド |
Outline of Annual Research Achievements |
高等植物における非光合成(非緑色)プラスチド(色素体)においては,「ストロミュール (stroma-filled tubule) 」と呼ばれる細管状構造が高頻度で形成される。申請者は,葉の表皮細胞(pavement cell)においてストロミュールの形成・伸長が過剰に起こっているシロイヌナズナの突然変異体 (stromule biogenesis altered [suba] 変異体) を2種取得した (Itoh et al. 2018)。本研究は,suba 変異体の研究を通して,非光合成プラスチドがどのようにしてその形態を維持しているかを解明することを目的としている。2019年度は,suba1 変異体の各組織におけるプラスチド形態について、定量解析、および、透過型電子顕微鏡を用いた微細構造解析を実施した。
suba1 変異体では、一般的な葉緑体分裂変異体で見られるような葉肉葉緑体のサイズ増大、数の減少、複数の狭窄(=多分裂)、不均等分裂などは確認されていない。suba1 変異体の葉肉葉緑体分裂が正常に起こっているかを定量的に確認するため、葉肉葉緑体のサイズ、細胞あたりの個数、細胞サイズと葉緑体の個数との相関について、野生型と suba1 変異体とで比較した。その結果、両者の間に統計的に有意な差は見られなかった。これにより、suba1 変異体は「様々な非葉肉型プラスチドにおいて形態異常を呈するにも関わらず、葉肉葉緑体の形態・分裂増殖が正常」という、これまでに報告の無いユニークな表現型をもつ変異体であることを確証することができた。更に、透過型電子顕微鏡を用いて、孔辺細胞葉緑体や花粉プラスチドなどの非葉肉型プラスチドの微細構造を解析した。その結果、特に孔辺細胞において、葉緑体の分解と推定される興味深い像が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初の本年度の研究実施計画は,大別して (1)suba1 変異体の各組織・細胞におけるプラスチド形態の詳細な解析。 (2)suba2 (parc6) 変異体の各組織・細胞におけるプラスチド形態の詳細な解析。 (3)suba1,suba2 変異体における葉表皮プラスチドの発生系譜の解析。 の3つであった。(1)については、「研究実績の概要」に記した通り、十分かつ興味深いデータを得ることができたと考える。(2)については、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた微細構造解析を進めており、データを整理している途上である。(3)についても、共焦点レーザー走査型顕微鏡(CLSM)を用いた解析を進めており、データを整理している途上である。以上の状況を踏まえて,現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の主な研究計画は以下の通りである。 (1)透過型電子顕微鏡(TEM)で確認された、suba1 変異体の孔辺細胞葉緑体の分解と思われる現象の詳細な探究。「特定の細胞タイプで起こるプラスチドの分解(消失)」は、花粉などで示唆されているものの報告例はいまだ少なく、興味深い現象である。(2)suba1,suba2変異体における葉表皮プラスチドの発生系譜の解析。2019年度に多くの画像を取得することができたが、それらの計測・統計解析を進めることにより、定量的な理解を目指す。(3)suba1 変異体における根のプラスチド(白色体)の形態解析。根のプラスチドは、野生型でも形態が複雑かつ多様であり、変異体との比較解析が難しいため、本格的な解析は未着手であった。2020年度は、形態定量化の新たな手法の開発も視野に入れながら、形態解析を進める。(4)suba1 原因遺伝子の、組織別発現解析(リアルタイム PCR 法による)。(5)suba1 変異体の光合成特性の解析。
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Causes of Carryover |
当初計画においては、消耗物品への支出を多く見込んでいたが、2019年度の研究においては在庫物品で充足された部分が大きく、物品費としての支出が予測よりも少なくなった。2020年度は、計画遂行に新たに必要な実験機器(備品)の新規購入に充てたい。
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