2020 Fiscal Year Research-status Report
非緑色プラスチド独自の形態維持機構:ストロミュール過剰形成変異体を用いた解析
Project/Area Number |
18K06314
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
伊藤 竜一 琉球大学, 理学部, 准教授 (50322681)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | プラスチド |
Outline of Annual Research Achievements |
高等植物におけるプラスチド(色素体)においては,「ストロミュール (stroma-filled tubule)」と呼ばれる細管状構造が、特に非光合成(非緑色)組織において高い頻度で形成される。申請者は,葉表皮のペーブメント細胞においてストロミュールの形成と伸長が過剰に起こっているシロイヌナズナの突然変異体(stromule biogenesis altered [suba] 変異体と命名)を2種取得した (Itoh et al. 2018)。本研究は,suba変異体の研究を通して,非光合成細胞のプラスチドがどのようにしてその形態を維持しているかを解明することを目的としている。2020年度は,suba1変異体の各組織におけるプラスチド形態についての更なる解析を実施した。(1) suba1変異体のシュート(地上部)表皮組織で見られるプラスチドの形態異常、特に、ストロミュールの過剰形成が、発生のどの段階で生じるのかを探るため、表皮組織の原基となる細胞で強く活性化されるプロモーターとプラスチド移行型(トランジットペプチド融合)GFP遺伝子とを接続した発現コンストラクトをsuba1変異体に導入し、表皮発生初期段階におけるプラスチドの形態解析を開始した。(2) (1)で述べたコンストラクトを、シロイヌナズナの既知の複数の葉緑体分裂変異体にも併せて導入し、系統的な比較解析を試みた。suba1変異体についてはまだ十分なデータが得られていないが、一部の葉緑体分裂変異体においては、発生初期段階から明瞭なプラスチド形態異常が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
年度当初の本年度の研究実施計画は,大別して (1) suba1変異体の孔辺細胞葉緑体の分解と思われる現象の詳細な探究。(2) suba1,suba2変異体における葉表皮プラスチドの発生系譜の解析。(3) suba1変異体における根のプラスチド(白色体)の形態解析。(4) suba1原因遺伝子の、組織別発現解析。(5) suba1変異体の光合成特性の解析。の5つであった。(1)、(2)、(3)の3項目については、蛍光顕微鏡レベルでの解析を概ね予定通りに実施することが出来た。(4)、(5)の2項目については、未だ準備段階にとどまっている。全国的な新型コロナウイルス感染の拡大により、大学への入構禁止、研究室の利用制限、注文物品の納品の大幅な遅延、遠隔(オンライン)授業への対応による研究時間の削減、などが大きく影響した。以上の状況を踏まえて,現在までの進捗状況は「やや遅れている」と自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の主な研究計画は以下の通りである。(1) suba1変異体の表皮組織原基におけるプラスチド形態表現型の詳細な解析、および、その既知葉緑体分裂変異体との比較。(2) suba1変異体の孔辺細胞など表皮の細胞で観察される「油滴様球状構造」の性状・生成についての探求。(3) suba1変異体において観察される、葉緑体分解現象の探求。特に、オートファジーの関与の有無を明らかにするため、オートファジー阻害剤、オートファジー関連マーカー、オートファジー関連変異体との交配、などの手法により生理学的・細胞生物学的解析を進める。(4) suba1変異体におけるストレス感受性の増減の検討。(5) suba1変異体のストレス感受時のストロミュール形成への影響の検討。
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Causes of Carryover |
2020年度(当初の補助事業最終年度)は、全国的な新型コロナウイルス感染の拡大により、大学への入構禁止、研究室の利用制限、注文物品の納品の大幅な遅延、遠隔(オンライン)授業への対応による研究時間の削減、などにより、当初計画していた実験や研究発表(学会発表、論文発表)を十分に進めることができず、残額が生じた。そのため、補助事業の1年延長を申請し、承認を得た。残額(=次年度使用額)は延長年度の研究諸費(物品費、旅費、人件費・謝金、論文発表に係る費用など)に充当する。
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