2020 Fiscal Year Research-status Report
低ノイズlncRNA検出システムの開発と複合体分析による分化スイッチ機構の解明
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18K06317
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
川田 健文 東邦大学, 理学部, 教授 (30221899)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村本 哲哉 東邦大学, 理学部, 講師 (10612575)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | lncRNA / 細胞性粘菌 / STAT / 形成体(オーガナイザー) / イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は新型コロナウイルス感染症の影響でラボでの活動が制限され、イメージング技術の開発に関しては何もできなかった。一方、dutA RNA結合タンパク質の同定に関してはRNA pull-down法を用いて大きな進展が見られ、dutA RNA特異的に濃縮されるタンパク質を多数同定することが出来た。 本年度はこれまでに得られていた薬剤耐性遺伝子を改変した3 x MS2 loop付きのdutA RNAとGFP-MS2タンパク質を共発現する株を作製した。また、コントロールとして3 x MS2 loop付きのRFP mRNA とGFP-MS2タンパク質を共発現、及び3 x MS2ループ無しのGFP-MS2タンパク質発現株を作製した。これらの株を用いて細胞を固定しないネイティブな条件下でのRNA pull-downの条件を改良し、3 x MS2 loop付きdutA RNAで特異的に濃縮されるタンパク質があることを確認した。そこで、これらをスケールアップしてSDS-PAGEにて回収し、得られたゲル断片をLC-MS/MSでプロテオーム解析(理化学研究所に依頼)した。 その結果、統計的な優位さを持って3 x MS2 loop付きdutA RNAで濃縮されたタンパク質が多く同定された。これらのタンパク質の個々の解析までは出来なかった。 2019年度までに様々なdutA 変異株を作製し、RNA-seqを行って多数の発現変動遺伝子を同定していた。昨年度はこれらの幾つかについてRT-qPCRで同様の変動を確認した。また、更なるSTATa標的遺伝子の探索ためにChIP-seqを行い、候補遺伝子を多数同定した。これらに関してもそれ以上の解析は活動制限等により行えなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Long non-coding RNA (lncRNA)は多様なメカニズムで生体の様々な反応を制御しているが、詳しく機能が調べられたlncRNAの多くは核内のlncRNAである。これに対して細胞質lncRNAの機能について詳細に調べられたものはまだ限定されている。我々は、細胞性粘菌の細胞質lncRNAであるdutA RNAが、発生に後期おけるオーガナイザー(形成体)領域で中心的なシグナル分子として機能する転写因子STATaの活性を調節することで未分化状態を調節していることを示してきた。 本研究では、発生におけるdutA RNAの機能を詳しく知るために、発生過程における発現組織が発現調節および発現後の局在調節により劇的に変化することをb-galのレポーター解析とRNA-FISHで示し、dutA RNAの形成体からの消失が発生の進行に重要であることを示した。また、lncRNAの機能解析にはRNA結合タンパク質の同定し複合体としての解析が欠かせないが、これまでに検出したdutA RNA結合タンパク質とは別に、ネイティブ状態でpull downしてさらなる種類の結合タンパク質を同定することに成功した。本研究ではdutA RNA-タンパク質複合体組成を分析して新規に同定されたタンパク質の機能を解析することで、dutA RNAがどのような機序で形成体から消失するかを解明し、細胞質lncRNAの組織特異的な消失によるダイナミックな分化スイッチのメカニズムを提唱すること目指しているが個々の解析は今後に残されている。また、生体組織中でのRNAの可視化を試み、dutA RNAのダイナミズムを把握することも目指したがまだ成功していない。 これまでの研究で大きく進展が見られた分野もあったが、活動の制限もあって出来なかったことも多く、総じて進展具合はやや遅れていると感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のようにdutA RNAに結合すると思われるタンパク質を多数同定した。多くはmRNAの品質管理に関するものと推測されており、これらを中心に個々のタンパク質について、本当にdutA RNAに結合するかを確認することを中心に以下の実験を計画している。1) 個々のタンパク質にタグを付けたコンストラクトを作製し、3 x MS2 loop付きdutA RNAとGFP-MS2タンパク質を共発現する株に入れることでRNA pull down実験を行い、目的のタンパク質が共免疫沈降するかを確認する。 2) タンパク質のタグを利用してRIP (RNA免疫沈降)を行い、複合体中にdutA RNAが含有されるかを確認する。 3) タンパク質のタグを利用して細胞内局在を調べると同時にRNA FISHを行いdutA RNAとの共局在を確認する。 4) 遺伝子破壊株と過剰発現株を作製し、表現型とdutA 変異株のRNA-seqで同定された発現変動遺伝子の変化から機能を推測する。 また、dutA RNAがどの様にSTATaシグナルに影響を及ぼすかについては未解決である。予備データとしてリン酸化されたSTATaとdutA RNAの局在は一致しないことから、全てのSTATaを認識するpanSTATa抗体を作製し直している。また、2019年度にSTATaプロモーター制御によるYFP-STATa発現コンストラクトを様々なdutA変異株に導入し、YFP-STATa発現株を得た。これらの株を用いてSTATaの挙動についても解析する。 本研究で提案した方法でdutA RNAの動態を観察することは容易ではないが、MS2-YFPと3 x MS2 loopを有するdutA RNAを発現するベクターを共に低コピーで発現する株におけるYFPのシグナルをRNA-FISHによるdutA RNAの局在と比較する。
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Causes of Carryover |
当初の予定では使い切れる予定であったが、新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴う緊急事態宣言などにより、大学での研究活動、特に実際に中心となって実験をしている学生の出入りが暫く禁止となり、研究活動が著しく停滞した。このため、当初の予算を年度内で使い切ることが出来なかった。また、これにより研究期間の延長を申し出て認められた。 最終年度は同定された個々のdutA RNA結合タンパク質のdutA RNAへの特異的な結合の検証と対応する遺伝子の破壊株の作製、及びタグ付きタンパク質発現株の作製を通した機能解析に使用する。
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