2018 Fiscal Year Research-status Report
抗微生物、細胞障害、細胞膜透過-ヒストンが配列内に秘めた多様な作用とその活用
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18K06319
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
岩室 祥一 東邦大学, 理学部, 教授 (70221794)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 哲也 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (00195794)
菊山 榮 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 名誉教授 (20063638)
蓮沼 至 東邦大学, 理学部, 准教授 (40434261)
中野 真樹 東邦大学, 理学部, 博士研究員 (20646195)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 細胞外ヒストン / 抗微生物作用 / 細胞毒性 / 植物病原菌 / カイコ |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒストンは、真核生物のヌクレオソームを構成する核内タンパク質として知られている一方、核外や細胞外にも存在する。代表者らは、ヒストンのサブタイプの一つであるH3が、細胞外においてヒト病原性微生物に対する抗菌作用と動物培養細胞に対する細胞毒性を示すことに着目し、これらの活性がH3の異なる領域に由来することを突き止めている。そこで本年度は、ヒストンH3が植物病原菌に対しても抗菌作用や細胞毒性をもつのか、またその場合、活性領域はどこであるのかを検証する実験を行なった。その結果、トマトかいよう病菌(グラム陽性菌)、イネ白葉枯病菌(グラム陰性菌)、イネいもち病菌(真菌)のいずれに対しても抗菌作用を示し、またヒトの病原性微生物に抗菌作用を示した領域が最も強い作用をもつことを明らかにした。成果の一部は学会で発表を行った。 一方、ヒストンは敗血症における死の主要な原因因子であり、マウスにヒストンを過剰投与することにより、敗血症にみられるような全身性の炎症作用が誘発される。本研究ではヒストンH3の炎症誘導領域を特定することを目的に、本年度はまずその検出系の作製を行うこととした。その際、動物実験上の制約や倫理面、さらにサンプルにかかるコストや動物飼育における労力の軽減を考慮し、被験体としてカイコを使用した。実験の前段階として、病原性微生物の死菌を投与してみたところ、5日以内に敗血症様作用を誘導できることが明らかとなった。そこでこの系を用いてカイコにヒストン混合物を注射したところ、同様の症状を誘導することができ、さらにその作用がヒストンと高い親和性をもつDNAを共投与することにより緩和できることを発見した。成果の一部は学会で発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はほぼ当初の計画通りに進み、成果の一部は関連学会で複数の発表を行っている。カイコへのヒストンH3の投与実験まで展開できなかったことから、この評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒストンH3については、抗菌作用や細胞毒性を示した領域に相当する合成ペプチドを用いて、それぞれが炎症反応や抗炎症反応に関わる細胞内因子の遺伝子発現に関わっているかどうかの検証を行う。また、全長および細胞毒性をもつ領域のペプチドをカイコに投与し、敗血症様の症状を誘導できるかどうか、またその緩和がDNAや抗体の添加により緩和できるかを検証する。 一方、ヒストンH4にもH3と同様の抗菌活性ならびに細胞毒性があると考えられる。そこで、ヒストンH4の全長を5分割したペプチドを作製し、それぞれの抗菌活性と細胞毒性を検証することにより、H3と同様にそれぞれの活性が異なる領域に由来するかどうかを微量液体希釈法やMTT assay、走査型電子顕微鏡観察法等により、検証する。 ヒストンは細胞膜を透過し細胞質に到達する性質をもつことが知られており、代表者らはすでにヒストンH2B分子中のどの領域がその作用に関わっているかを突き止めている。そこでその配列をもつペプチドをベクターとし、そのN末端もしくはC末端、あるいは両端に「積荷」として細胞内に導入したい配列を付加して培養細胞に添加する実験を行う。また、ヒストンH3については細胞膜透過に関わる領域は未解明である。細胞膜透過には塩基性アミノ酸に富む領域が必須であることに基づき、H3配列中からその領域を大まかに予測して合成したペプチドを蛍光標識してその膜透過作用を検証する。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた最大の理由は、北海道の震災や本務の日程との重複により、予定していた学会出張を見送ったため旅費を使用しなかった点と、カイコへの投与のためのヒストンH3関連ペプチドの合成を行わなかった点にある。次年度に生じた分はその合成とカイコを中心に、物品(消耗品)の購入に充当する。
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[Book] 動物学の百科事典2018
Author(s)
公益社団法人日本動物学会(編)、岩室祥一ほか著
Total Pages
800
Publisher
丸善出版
ISBN
978-4-621-30309-2
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