2020 Fiscal Year Research-status Report
色素体とミトコンドリアの分裂装置の形態構造と分子動作機構の解明
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18K06325
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
茂木 大和 (吉田大和) 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (80785444)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 葉緑体分裂 / ミトコンドリア分裂 / CRISPR / 原始真核生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまでに構築したVenus融合葉緑体分裂遺伝子株を用いた詳細なイメージング解析を実施した。またタイムラプスイメージング実験系の確立に成功したため、シゾンの葉緑体分裂過程を1分の時間分解能で詳細に解析を実施した。 こうしたタイムラプスイメージング解析の結果、形成された葉緑体分裂リングは毎分20nmの速度で収縮し、葉緑体分裂を実行していることが明らかとなった。収縮速度は分裂の前半から終盤にかけて全く同じ速度で実行することが分かった。一方で葉緑体分裂リングを構成するタンパク質は、分裂の進展(分裂リングの収縮)に伴って、蛍光輝度が増加するタンパク質種と、一定の輝度を保つタンパク質種が存在することが分かった。現在、これら一連の結果に基づいた分裂リングの可動モデルシミュレーションを実施しており、モデルの検証を進めている。 さらに本年度はシゾンを用いたCRISPR型遺伝子編集技術シゾンカッターを構築することに成功した。我々はCas9にVenusを融合したCas9-Venusを恒常発現させたシゾン細胞株YMT1を構築した。加えて、任意のgRNA配列を基本となるプラスミドDNAに簡便な方法によって組み込むことで、極めて簡単に目的遺伝子をノックアウトすることが可能となった。この基本プラスミドDNAにはレポーターとしてミトコンドリア局在型蛍光タンパク質mitoScarletを組み込んであるため、ゲノム編集された細胞は、葉緑体(自家蛍光)に加えて、細胞核(Cas9-Venus)、ミトコンドリア(mitoScarlet)を即座に観察することが可能である。現在、開発したシゾンカッター技術に関して論文を投稿中である(Tanaka et al. under review)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までのところ、以下の1から3の理由により、当初予定していた以上に成果を得ることが出来ている。 1)葉緑体分裂リングの動作機構を解明するため、当初はタンパク質分子の局在などを評価することを基盤として計画していたが、今回、正確なタイムラプスイメージング実験系を確立することに成功したため、時間計測、速度の算出までが可能となり、葉緑体分裂リングの具体的な分子動作機構の分析が飛躍的に進展している。 2)また当初の計画では予想されていなかった新規のオルガネラ分裂遺伝子を同定することに成功した。これはミトコンドリア分裂時に発現し、ミトコンドリア核様態に特異的に局在するタンパク質X(未だ名称は決まっていない)を見出した。この遺伝子は、ミトコンドリア核様体に局在するが、細胞質および葉緑体のリボソーム構成遺伝子群の遺伝子発現を制御するカギ因子であることが分かった。細胞分裂期、葉緑体分裂期、ミトコンドリア分裂期という分裂増殖時に、オルガネラを分断するだけでなく、これらのオルガネラを倍加するために細胞レベルでの翻訳タンパク質の適切化が行われていることが分かってきた。これらの結果は今年度中には学術雑誌へ投稿できる予定(Mogi et al. 論文投稿準備中)。 3)シゾンではこれまで複雑なコンストラクションなどを行ったうえで遺伝子組換えを実施する必要があったが、我々がCRISPR型のゲノム編集技術「シゾンカッター」を確立したことによって、大幅な効率化を進めることに成功した。特にシゾンカッターでは、目的遺伝子を改変するだけでなく、複数のオルガネラを蛍光タンパク質によってラベリングすることによって、目的遺伝子のオルガネラ分裂への影響を即座に評価できるようになったことが大きい。この技術は、遺伝子改変後に即座に解析が行えるため、たとえ目的遺伝子が生存に必須なものであってもノックアウト可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに当初の計画を上回る進展を果たすことが出来ているため、今年度はこれらの結果をより一層進展させる予定。葉緑体分裂リングの分子動作機構の分析が特に順調に進んでいるため、これらの解析を深化させて学術雑誌への論文投稿につなげる予定。また一方でミトコンドリア分裂リングの解析は未だ探索的な段階のため、今年度は葉緑体分裂リングの動作解析実験系を基盤として実施する。葉緑体分裂リングとミトコンドリア分裂リングの分子動作機構にはかなり似通った側面があると予想されるが、既に幾つか相違点があることも明らかになってきている。このため、今年度の詳細な両オルガネラ分裂リングの分子動作解析を行うことによって、これらのオルガネラ分裂増殖機構がどのような分子機序によって実現しているのかを明らかにする。この結果は、ミトコンドリアと葉緑体といった細胞内共生を基盤とするオルガネラの誕生プロセスの解明、さらには真核生物誕生を解くカギになると予想される。 我々が新たに発見したリボソーム構成遺伝子発現制御機構「リボソームサイクル」は、遺伝子転写(トランスクリプトーム)ばかりが着目されがちな現在の生物学研究状況に警鐘を鳴らす。転写されたmRNAは、そのまま翻訳されているわけではない可能性を示唆しており、より詳細な分析を進める必要があると考えている。特に細胞レベルでの翻訳制御はほとんど研究されておらず、本研究を通じて新たなパラダイムを構築できるものと考えている。
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Causes of Carryover |
当初予定していた学会や研究集会がオンライン開催となり、出張費の消費が無くなったため、次年度使用額が生じた。本年度の学会や研究集会はまだオンサイト・オンライン開催かは不明であるが、より多方面で研究成果の発表を行う予定。また当初の予定以上に研究成果が得られているため、これらを学術雑誌へ投稿するための論文作成・印刷費として利用する予定。
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Research Products
(2 results)