2021 Fiscal Year Research-status Report
色素体とミトコンドリアの分裂装置の形態構造と分子動作機構の解明
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18K06325
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 大和 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (80785444)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 葉緑体分裂 / ミトコンドリア分裂 / CRISPR-Cas9 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、Venus融合葉緑体分裂遺伝子株を用いたタイムラプスイメージング解析を基盤とした葉緑体分裂リングのキネティクス解析を実施した。タイムラプスイメージング解析の結果、特に変異導入型の形質転換株では、葉緑体分裂動態に極めて興味深い動作不良の様子を観察することに成功した。この結果は、従来は全く考えられていなかった葉緑体分裂機構モデルの構築を可能とし、現在、論文として報告する準備を進めている(Yoshida and Mogi, in preparation)。 さらに本年度はシゾンを用いたCRISPR型遺伝子編集技術シゾンカッターを開発し、論文として報告した(Tanaka et al. Journal of Cell Science)。同論文は新聞などにも掲載され、また国内外からシゾンカッター法に必要な細胞株・プラスミドDNAの供与依頼などもあり、利用範囲が拡大している。 また本年度は、葉緑体・ミトコンドリア分裂機構の解析から派生した2研究に関しても著しい展開がみられており、生体エネルギー学的視点から、葉緑体・ミトコンドリアの創出に関して定量的なデータを得ることに成功した。この結果は、真核生物における生体エネルギー論の確立へ向けた革新的な展開であり、また真核生物の誕生の仕組みについて、極めて定量的な知見を提供することが可能になると期待される。さらに葉緑体やミトコンドリアの分裂増殖を制御するしくみとして、新たにタンパク質輸送機構が重要な役割を果たしていることも明らかとなってきており、これらについても随時論文として発表する方向で準備を進めている(Kondo et al, Hirata et al, in preparation)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までのところ、以下の2つの理由により、当初予定していた以上に成果を得ることが出来ている。 1)葉緑体分裂リングの動作機構を解明方法として、今回新たに開発したタイムラプスイメージング実験系が予想以上の成果を得ることを可能にしている。特に1分単位での高時間分解能で解析することによって、これまで全く明らかになっていなかったキネティクスに関する情報が得られていることが特に重要であり、同手法によって明らかとなった分子動態を基盤として、現在さらに詳細な分子機構の解析に着手している。 2)本研究によって同定した新規のオルガネラ分裂遺伝子を同定することに成功した。同遺伝子はミトコンドリア分裂時に発現し、ミトコンドリア核様態に局在する。この遺伝子転写産物はミトコンドリア核様体に局在するが、細胞質および葉緑体のリボソーム構成遺伝子群の遺伝子発現を制御するカギ因子であり、細胞分裂を正常に行うたまには必須の因子であることが明らかとなったため、現在論文投稿準備中(Mogi et al. 論文投稿準備中)。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに当初の計画を上回る進展を果たすことが出来ているため、今年度はこれらの結果をより一層進展させる予定。葉緑体分裂リングの分子動作機構の解析から、多くの成果が得られたため、早急に学術雑誌への論文投稿を行う予定。またミトコンドリア分裂リングの解析は未だ探索的な段階ではあるが、葉緑体分裂リングの解析実験系を応用して実施する予定。得られた結果を基に葉緑体とミトコンドリアにおける分裂増殖機構を比較することによって、これらのオルガネラ分裂増殖機構がどのような分子機序によって実現しているのかを明らかにする。この結果は、細胞核が細胞内共生オルガネラをどのようにして獲得したのかという、細胞内共生機構の根幹をなす原理構築を可能にすると予想される。 また我々が新たに発見したリボソーム構成遺伝子発現制御機構「リボソームサイクル」は、遺伝子転写(トランスクリプトーム)ばかりが着目されがちな現在の生物学研究状況に警鐘を鳴らす。転写されたmRNAは、そのまま翻訳されているわけではない可能性を示唆しており、より詳細な分析を進める必要があると考えている。さらに現在、シゾンを用いて一細胞レベルでの生体エネルギー動態が明らかとなり、セントラルドグマおよび細胞のエネルギー学的視点から、新たなパラダイムを構築できるものと考えている。
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Causes of Carryover |
予定していた学会や研究集会がオンライン開催となり、出張費の消費が無くなったため、次年度使用額が生じた。本年度はこれまでの研究成果を発表するために学会や研究集会など多方面で研究成果の発表を行う予定。また当初の予定以上に研究成果が得られているため、これらを学術雑誌へ投稿するための論文作成・印刷費として利用する予定。
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Research Products
(6 results)