2018 Fiscal Year Research-status Report
ペプチド作動性チャネルの細胞外ドメインに存在する活性化を規定する構造の解析
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18K06337
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
古川 康雄 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (40209169)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イオンチャネル / ペプチド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ペプチド作動性チャネルの構造機能相関を解明することを目指して継続している研究の一環であり、軟体動物のペプチド作動性チャネルであるFMRFamide作動性Na+チャネル(FaNaC)を用い、チャネルの細胞外ドメインに変異を導入したチャネルにおいて機能解析を行うことで、チャネルの活性化に関わる細胞外ドメイン構造を特定することを目的としている。 本年度は、FaNaCの細胞外ドメインに存在する7つのSS結合(SS1~SS7)によって維持される構造の機能的意味合いを探るために、SS結合を形成するシステインをアラニンに置き換えたSS結合除去変異体を作製し、FMRFamideによるチャネルの活性化を解析した。その結果、SS1, SS2, SS4, SS5, SS6変異体は野生型チャネルと同様な応答を示したが、SS2変異体はチャネル電流の発現が著しく抑えられていた。また、SS3, SS7変異体は高濃度のFMRFamideに対しても全く応答しなかった。SS3, SS7はthumbドメインとよばれる構造の維持に関わっているので、チャネルの活性化にはthumbドメインの構造維持が必要であることが示唆された。 次に、ホモロジーモデリングによりFaNaCの構造モデルを作製し、先行研究においてFMRFamide応答性に関与することが示唆された領域とその近傍を精査したところ、細胞外に露出すると思われる部位に、高度に保存されている芳香族アミノ酸が存在することがわかった。そこで、それら芳香族アミノ酸の点変異体チャネルを作製してFMRFamide応答性を検討した。その結果、170, 174, 176, 181位のフェニルアラニンをバリンに置換するとFMRFamide応答性が低下することがわかった。また、167位トリプトファンをバリンに置換するとFMRFamide応答性が消失した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画において、FMRFamide作動性Na+チャネルの活性化に関わる細胞外ドメイン構造を絞り込むために、細胞外ドメインに存在するSS結合を一つずつ破壊したチャネルを作製して機能解析を行う実験を計画していた。この実験は予定通り遂行され、7つのSS結合変異体の作製と機能発現実験を終了した。その結果、細胞外ドメインのサブドメイン構造の一つであるthumbドメインが正常に維持されることがチャネル機能発現に必須であることが示唆された。 当初の研究計画では、FMRFamide応答性が異なる別種の動物由来のFaNaC間でキメラチャネルを作製し、キメラチャネルの機能解析実験を行うことを予定していた。しかし、FaNaCが属するDEG/ENaCチャネル族で唯一構造が知られている酸感受性チャネルの結晶構造を鋳型としてFaNaCのホモロジーモデルを作製し、過去に報告されているFMRFamide感受性に関わるとされた領域の位置をモデル上で特定し、その近傍の構造を吟味したところ、サブドメイン構造の一つであるFingerドメインに芳香族アミノ酸からなるFaNaC固有の構造があることを発見した。そこで、キメラチャネル作製は中断し、それら芳香族アミノ酸に変異導入する実験を行った。その結果、Fingerドメインを構成するα1,α2ヘリックスとその間のループ構造に存在するフェニルアラニン、チロシン、トリプトファンがFMRFamide感受性を規定する構造を作っていることが示唆された。特に167位トリプトファンは活性発現に必須で、これをバリンに置き換えたチャネルはFMRFamide応答性を消失した。 以上の結果は、当初の実験計画を一部変更したものであるが、ペプチド作動性チャネルの活性化に関わる細胞外ドメイン構造の同定という本研究の目的の達成に向けた大きな進展であったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに行った研究により、FMRFamide作動性Na+チャネルの細胞外ドメインに複数の芳香族アミノ酸からなる特徴的な構造が存在しており、それがFMRFamide応答に関わる部位を形成していることが明らかになった。現在、FMRFamide応答性に関わる芳香族アミノ酸を含む領域がFMRFamide結合部位であるかどうかを検討する1方法として、既存のパーソナルコンピューターを使ってFMRFamideとFaNaCのドッキングシミュレーションを試み、予備的な結果を得ている。本年度の経費でワークステーションを計上しているので、ドッキングシミュレーションによる解析がはるかに効率的に進むものと考えている。また、FMRFamide応答性に関わると思われる領域が推定されたので、分子動力学シミュレーションを導入し、ペプチド結合がチャネルの活性化をもたらすミクロなメカニズムの解明を目指した研究をスタートさせる予定である。このシミュレーション実験は専門家の助力を仰ぎながら進めていくことになるため、成果がでるまでには相当な時間がかかるものと思われるが、本研究期間の間に何らかの結果を得たいと考えている。 一方、現在解析を進めている芳香族アミノ酸変異体の中に、FMRFamide応答性を低下させるだけでなく、質的に変化させてしまうものが存在する。これらの応答変化がどのようなメカニズムによるのかを明らかにするために、これらの変異体においてもドッキングシミュレーションを行い、FMRFamide結合可能部位を推定して野生型のそれと比較する。これらの変異導入部がFMRFamide結合部位ではなく、他の部位と相互作用することで活性化につながるコンフォメーション変化に関わっている可能性もあるので、FaNaCの構造モデルから相互作用可能部位を探り、相手となる部位を絞り込むための実験を計画する予定である。
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