2019 Fiscal Year Research-status Report
刺胞動物シナプスの形態と分子構築からシナプスの進化を探る
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18K06339
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Research Institution | Fukuoka Women's University |
Principal Investigator |
濱田 俊 福岡女子大学, 国際文理学部, 教授 (60282349)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
濱田 香世子 福岡女子大学, 国際文理学部, 学術研究員 (20448814)
美濃部 純子 福岡女子大学, 国際文理学部, 助手 (80190718)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 刺胞動物 / ヒドラ / 散在神経系 / シナプス / 進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
刺胞動物の散在神経系は、最も原始的な神経系の1つとされる。散在神経系のシナプスは、脊椎動物などと比較すると、構造的に原始的な特徴を有しているが、その分子構築や機能の違いはほとんどわかっていない。 シナプスの分子進化の過程を探る目的で、刺胞動物モデル生物であるヒドラを用い、神経細胞にどのような脊椎動物シナプスたんぱく質相同遺伝子が発現しているか検討している。昨年度は7種類の脊椎動物シナプスたんぱく質相同遺伝子のクローニングを行い、そのうち5種類に対しin situ hybridization法で、2種類に対しては抗体を作成し免疫染色で発現を検討したが、7種類すべてで神経細胞での発現を確認できなかった。今年度になり、ヒドラの単一細胞RNA sequencing(scRNAseq)のデータが公開された。このデータを検討したところ、昨年度我々が解析した脊椎動物シナプスたんぱく質相同遺伝子は、いずれも神経細胞での発現はわずかであり、主に上皮細胞で発現していることがわかった。そこで、本年度はこのscRNAseqデータを我々で再解析し、229個の遺伝子が神経細胞に強く発現することを見出した。これらの遺伝子に対し、さらにドメイン構造などの解析を行い、シナプス小胞たんぱく質をコードしていると予想されるものを同定した。この遺伝子のcDNAを利用し、pH感受性GFPおよびtdTomatoとの融合タンパク質をヒドラに発現させ、シナプス小胞の局在と開口分泌をリアルタイムで観察するためのトランスジェニック(Tg)ヒドラを作成するためのベクターを作製した。受精卵へのマイクロインジェクションにより、これまでに数ラインのtdTomato陽性のトランスジェニック(Tg)ヒドラを得ている。また、既に作成済みのシナプシンTgヒドラの電顕レベルでのシナプス構造解析も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度までに脊椎動物シナプスたんぱく質と相同性を示す7種の分子をコードする遺伝子のクローニングおよび発現様式の検討を行ったが、予想に反し、いずれもヒドラで神経細胞での発現を確認できなかった。今年度は、他グループ(Siebert et al., Science, 2019)により公開されたヒドラsingle cell RNA sequcencingのデータを利用できるようになり、昨年度の我々の得た発現解析の結果の正しさが確認される一方、本研究の目的に有望な、神経細胞特異的な脊椎動物シナプスたんぱく質相同分子の候補を得ることができた。この分子をコードするcDNAを用いたトランスジェニックヒドラの作成は順調に進んでいる。しかし、本研究1年目(昨年度)に脊椎動物シナプスたんぱく質に対するヒドラ相同分子の遺伝子の同定が進まなかったので、全体としての進捗状況はまだやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
single cell RNA sequcencingにより見出した脊椎動物シナプス小胞たんぱく質のヒドラ相同分子に対し、pH感受性GFPおよびtdTomatoの融合タンパク質を発現するトランスジェニック(Tg)ヒドラを作成・樹立する。この融合タンパク質は、既に報告されているsynaptopHlourinと同様に、シナプス小胞の開口分泌をtdTomatoの蛍光強度に対するpH感受性GFPの蛍光強度変化で検出できると予想される。このヒドラを利用し、シナプス小胞の局在および神経伝達物質の放出部位をライブイメージングにより明らかにする。また、Tgヒドラがうまく樹立できなかった場合に備えて、ペプチド抗体を作成する。 また、ヒドラの主要な神経伝達物質であるRFamide神経ペプチドの受容体を構成するHyNaC2サブユニット(Durrnagel et al, JBC, 285, 11958)とGFPとの融合たんぱく質を発現するTgヒドラの作成を行う。このTgヒドラを利用することで、シナプス後部がどのような場所にあるのか明らかにし、シナプス前部との対応関係を明らかにする。 さらに、シナプシンTgヒドラのシナプス部の電子顕微鏡による解析を引き続きおこない、ヒドラのシナプシンの機能を明らかにする。 これまでに作成したTgヒドラは、いずれもシナプスたんぱく質融合タンパク質をアクチン・プロモーターにより間細胞系列の細胞全てに過剰発現させている。これまでに本研究で作成したTgヒドラでは、導入遺伝子の発現量が高いと、高い確率で餌を捕食できない異常がみられる。この異常を回避するため、神経細胞特異的なプロモーターでシナプス関連たんぱく質融合タンパク質を発現させることが望ましいと思われる。このため、scRNAseqで同定した神経細胞で強く発現する遺伝子のプロモーターを利用したTgヒドラの作成も行う。
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Causes of Carryover |
計画初年度に行った哺乳類シナプス関連分子に相同性を示すヒドラ・シナプス分子の同定が遅れたため。次年度(最終年度)に、ヒドラシナプス小胞タンパク質に対する抗体作成に用いる。また、Tgヒドラの作成に必要な試薬等の購入にも用いる。
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