2018 Fiscal Year Research-status Report
The mechanisms of selection of the translation initiation codon; analysis of illegitimate translation in mutant mice created by genome editing
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18K06355
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Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
牧野 茂 公益財団法人がん研究会, がん研究所 がんゲノム研究部, 研究員 (30462732)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
権藤 洋一 東海大学, 医学部, 特任教授 (40225678)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 定型外翻訳 / 開始コドン / フレームシフト変異 / マウス遺伝学 / 形態形成 / 疾患モデル / ヘッジホグシグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
独自に発見した「定型外翻訳」は、KOZAK配列などとは異なる未知の翻訳制御機構の存在を強く示唆した。本研究では、定型外翻訳解析をさらに個体レベルにおいて進め、mRNA上の複数のAUG配列から、適切な翻訳開始コドンを選択する機構を明らかにすると共に、定型外翻訳が関連するヒト疾患の分子基盤の解明も目指す。 形態形成の鍵を握るGli3遺伝子にゲノム編集を用いて突然変異を導入し、様々なフレームシフト変異マウスを独立に5系統を樹立した。完全なGli3ノックアウト(KO)マウスは胎生致死であることが古くから知られているが、今回樹立した全てのフレームシフト変異系統は、成体まで問題なく生存することが明らかとなった。KOマウスが示す重度な中枢神経系の形態異常も、今回樹立したフレームシフト変異マウス胚では完全にレスキューされた。以上より、定型外翻訳で発現するGLI3タンパク質は、正常なGLI3タンパク質と同等の活性を持つことを明らかにした。 定型外翻訳がGli3遺伝子に限らない一般的な現象であること、さらに、マウスに限らず生物種を越えて一般的な現象かどうか検証するため、定型外翻訳に関する文献調査を行なった。その結果、少なくとも23のヒト疾患において、定型外翻訳が疾患の発症や重篤さの変化に重要な役割を果たすこと見出した。ヒト細胞HEK293Tにおいてマウスと全く同じ定型外翻訳が見られることをわれわれ自身実験的にも示しており、従来知られている翻訳制御機構とは異なる定型外翻訳が、種を超えて一般的な現象であることを強く示唆する結果を得た。さらに、近年のuORFによる翻訳制御の知見ともあわせ、定型外翻訳の分子遺伝学的解明は、これまで全く知られていない遺伝子発現制御の重要な分子機構を明らかにし、ヒト疾患の分子基盤の解明にもつながると確信する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者らが樹立した Gli3フレームシフト変異マウス系統では、定型外翻訳によるほぼ全長のGLI3タンパク質が発現することに加え、 Gli3 KOマウスで観察される胚性致死と重度な中枢神経系の形態異常が完全にレスキューされることを明らかにした。この結果は、5つの独立したフレームシフト変異を持つ全ての変異マウス系統で観察されたことから、定型外翻訳が、特定の突然変異による例外的な現象ではなく、一般的なマウス Gli3 遺伝子の翻訳制御を反映したものと考えられる。さらに、定型外翻訳が少なくとも23のヒト疾患に関わることも文献調査から明らかにし、定型外翻訳が、「マウス」「 Gli3遺伝子」に限らない、広く生物に一般的な現象であることを明確に示すことに成功した。定型外翻訳の一般性の検証は、本研究課題の中心的な目的の一つであり、初年度として順調に進捗したと考える。 フレームシフト変異アレルから機能を持ったタンパク質が発現する定型外翻訳が一般的であることは、セントラルドグマを再考する必要性さえも示唆しており、基礎的な生命現象を解明する上で極めて波及効果が大きい。また、ヒト疾患に定型外翻訳が関与することを示した文献のほとんどは、疾患個別的な研究によるため、多くの疾患に共通する定型外翻訳の分子メカニズムは不明である。メカニズムが明らかとなっていない多くの疾患に定型外翻訳が関与する可能性も考慮すると、本研究が、「定型外翻訳関連疾患」として波及することが期待できる。今年度の成果により、定型外翻訳の解析が、翻訳開始コドンの選択機構やヒト疾患の分子基盤の理解につながることを示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ゲノムデータベース上の遺伝子は、開始コドンから終止コドンに至るまでの一つのタンパク質をコードする領域としてアノテートするのが一般的である。しかし、これまでの解析で、フレームシフト変異アレルでは、複数のAUG配列から定型外翻訳が起こりうることを明らかにした。しかし、突然変異アレルで定型外翻訳を開始するAUG配列が、変異のない野生型アレルにおいても開始コドンとして機能するのか明らかでない。野生型アレルにおいても、複数のAUG配列から、out-of-frameのもの含めた様々なタンパク質が発現する可能性が考えられる。一方、未知のメカニズムにより、野生型アレルでは、定型外翻訳の開始が抑制される可能性も考えられる。次年度以降、次世代シークエンス技術を活用したリボソームプロファイリング等の技術を用い、野生型アレルとフレームシフト変異アレルにおいて、翻訳開始点の変化を明らかにする。この解析により、翻訳開始コドンを選択する新規のメカニズムを明らかにすることができると考える。 これまでに、定型外翻訳がヒト疾患で重要な役割を果たす23の文献を見出したが、それらの多くは、症例個別的な研究であり、共通した分子メカニズムの解明には至っていない。本研究では、定型外翻訳が関わる疾患関連遺伝子に共通する定型外翻訳や翻訳開始点を選択する分子機構の解明を目指す。ヒト疾患の責任変異と同等の変異を導入した細胞株やマウス系統をゲノム編集技術を利用して作成し、in vivoでの定型外翻訳と表現型の解析を行うと共に、病態の正確な理解と新たな治療法の開発につながるような疾患モデルマウスの開発にも取り組む。さらに、定型外翻訳の分子メカニズムから、起こりうる表現型を推定し、これまでメカニズムが不明であった疾患の分子基盤を明らかにする。
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Research Products
(1 results)