2021 Fiscal Year Research-status Report
脊索形質獲得の分子基盤:脊索動物の誕生・起源・進化
Project/Area Number |
18K06370
|
Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
高橋 弘樹 基礎生物学研究所, 形態形成研究部門, 助教 (40283585)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 脊索 / ホヤ / ナメクジウオ / ギボシムシ / ヒトデ |
Outline of Annual Research Achievements |
脊索は脊索動物体制における中軸器官であると同時に、脊索動物を特徴付ける最も重要な形質である。したがって、脊索形成の分子メカニズムを明らかにするこ とは脊索動物の体制構築の解明につながると同時に、脊索動物進化のメカニズムの理解にも直結する。また、脊索を持たない共通祖先の動物がどのように、この 新規形質を獲得したかをひも解くことは、 我々ヒトを含めた脊索動物誕生の分子的基盤を明らかにする事につながる。そこで、まず脊索動物門(ナメクジウオ、 ホヤ)の脊索形質の分子基盤を明らかにする。次に脊索形成の分子メカニズムを尾索動物(ホヤ)を用いて解析する。さらに、脊索動物と脊索を持たない近縁の半 索動物・棘皮動物(ギボシムシ、ヒトデ)を用いて脊索形成遺伝子ネットワーク進化の解明を目指し、脊索動物の誕生・起源・進化に迫る。 脊索動物の誕生・起源・進化を考える際にその鍵となるのが「脊索」である。脊索は中胚葉性で原腸陥 入の初期に陥入を開始し、収斂と伸長などの特徴的 な細 胞運動を伴い、体軸の中心を前後に走るロット状の構造として形成される。脊索形成にはT-box転写 因子であるBrachyuryが重要な役割を果たす。しかし、 Brachyuryの役割は脊索形成に特化したものではなく、 もともと原腸形成に関連した役割を持っていたもの が、脊索動物の進化の際に脊索形成に関わったものと考えられる。 これまで、脊索形成の分子基盤を明らかにするために、ホヤとナメクジウオを用いた解析を展開してきた。ナメクジウオ成体の脊索細胞を高純度に顕微鏡下で単離し遺伝子解析を進めてきた。また、ホヤの脊索形成に重要な働きをするBrachyury遺伝子のターゲット遺伝子群を明らかにしてきた。さらに、脊索形成の分子メカニズムを解明する上で非常に重要となる、脊索の細胞極性・細胞運動・細胞間接着に関わる分子機能が数多く明らかになりつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
脊索動物の脊索の分子的基盤を明らかにし、脊索形成の分子機構の解析に取り組んでいる。特に、ホヤ胚を用いて脊索形成過程で働く新たな分子に焦点をあてた機能解析を進めている。また、脊索形成遺伝子ネットワークの解析については、中国厦門大学でナメクジウオ胚を用いたレポーターアッセイ実験を遂行できた。しかし、ナメクジウオ胚におけるレポーターアッセイ系はバックグランドのシグナルが強く解析結果に不明確な部分が多く残った。さらに、ヒトデのBrachyury遺伝子の発現制御の解析も進めており、ホヤ胚を用いた解析で興味深い結果を得ている。これまでのところ研究は計画段階に比べてやや遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度において研究課題に取り組み目的を達成するために、以下のアプローチによって研究を推進する。 1. 頭索動物、尾索動物、脊椎動物の脊索形質の分子的基盤(脊索特異的遺伝子解析):脊索動物門の共有派生形質である脊索細胞の遺伝子セットの分子的基盤を明らかにする。いくつかの動物種の発生過程におけるシングルセル解析が報告されてきている。それらの解析から得られたデータを含めて脊索特異的遺伝子解析を進めていく。 2. 脊索形成の分子機構・脊索形成遺伝子の機能解析(発生細胞生物学的解析):発生生物学的アプローチが容易で、解析が進んでいる尾索動物ホヤを用いた遺伝 子機能解析を進める。特に細胞極性、細胞運動、細胞間接着に関わる新たな分子の機能解析を展開する。 3. 脊索形成遺伝子ネットワーク進化(遺伝子発現制御解析):Brachyury遺伝子の原口領域に一過性に発現する領域と、脊索に持続的に発現する領域における発現 制御機構について、特に、ホヤ、ナメクジウオ、ヒトデを用いて解析する。
|
Causes of Carryover |
計画段階で実施を予定していたホヤを用いた脊索遺伝子の機能解析実験が一部遂行できなかったために次年度使用額が生じた。研究の最終年度に実験実施を遂行して研究成果をまとめるために助成金を使用する。
|