2020 Fiscal Year Research-status Report
Molecular analyses of tyrosine synthesis and accumulation mechanisms in soldier aphids that has evolved with gall repairing behavior.
Project/Area Number |
18K06373
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
沓掛 磨也子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (90415703)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 社会性アブラムシ / ゴール修復 / チロシン / 巨大顆粒細胞 / 菌細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまでのモンゼンイスアブラムシ近縁種によるRNAseqデータから得られた結果をもとに、兵隊において特殊化した巨大顆粒細胞の進化起源を明らかにするための研究に取り組んだ。これまでのRNAseq解析の結果から、モンゼンイスアブラムシ兵隊の巨大顆粒細胞において特異的発現するフェノール酸化酵素が、巨大顆粒細胞を持たない近縁種においても発現していることがわかった。そこで、近縁種におけるフェノール酸化酵素の発現組織を免疫組織化学で調べることにより、モンゼンイスアブラムシの巨大顆粒細胞の進化起源を解明しようと試みた。通常、昆虫のフェノール酸化酵素は血球において発現することが知られている。しかしながら、調べた結果、このフェノール酸化酵素はイスノフシアブラムシおよびイスノアキアブラムシにおいて、成虫と幼虫の脂肪体で発現していることが判明した。また、このことはイムノブロット解析によっても確認された。以上の結果は、モンゼンイスアブラムシにおいて、ゴール修復に必要な物質(チロシンやフェノール酵素などのタンパク質成分)の蓄積に特化した巨大顆粒細胞が脂肪体細胞由来であることを強く示唆するものであり、これにより、これまで未解明だった巨大顆粒細胞の進化起源が解明された。本研究により、社会性アブラムシにおけるゴール修復の進化には、フェノール酸化酵素の遺伝子重複や発現組織の変化という分子進化的イベントが重要な役割を果たしたという事実が明らかになった。 本年度はまた、兵隊の分業に関する研究として、ゴール形成する社会性種であるハクウンボクハナフシアブラムシにおいて、若齢の兵隊はゴール内部で内役(清掃)を行い、老齢になるにつれてゴール開口部付近に移動し外役(攻撃)にシフトするという齢差分業の存在を明らかにし、その成果を論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、フェノール酸化酵素に着目した種間比較解析から、ゴール修復のために特殊化した巨大顆粒細胞の進化起源が脂肪体細胞であることを明らかにすることができた。このことは、ゴール修復という社会行動の進化を分子・細胞レベルで考察する上で重要な知見を与える結果であり、研究は順調に進んでいると評価できる。現在、これらの成果について、国際誌に論文投稿するための準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでに得られた成果をまとめて、国際誌に論文投稿するほか、国内外の学会等でも発表を行い、成果の普及に務める。本年度は新型コロナウイルスの影響で、計画していたサンプリングができなかったり、発表予定だった国際学会が延期になったりする事態に見舞われたが、次年度も引き続き、できる限りの工夫しながら研究を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、参加予定であった国際昆虫学会(フィンランド)が延期になり、旅費にかかる費用を次年度に繰り越すことにした。また、現在執筆中の論文掲載料(APC)についても、次年度に繰り越すことにした。
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