2021 Fiscal Year Research-status Report
Speciation in the open ocean: how aquatic amniotes have diverged underwater
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18K06378
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Research Institution | Museum of Natural and Environmental History, Shizuoka |
Principal Investigator |
岸田 拓士 ふじのくに地球環境史ミュージアム, 学芸課, 准教授 (40527892)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 種分化 / 集団ゲノミクス / ウミヘビ / 縄文貝塚 / 古代DNA |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、明瞭な地理的分断のない、開けた大洋における種分化メカニズムの解明を目指している。海棲の羊膜類は、その起源が明瞭であるために種分化の研究に適しており、また興味深い種分化パターンを示す。始新世に海へと進出した鯨類はおよそ100種が記載されている一方で、ほぼ同じ頃に起源を持つ海牛類はわずか4種しか現存しない。ウミヘビの仲間は、卵生で陸に産卵するエラブウミヘビ類と、胎生で生涯を海中で過ごすウミヘビ類の2つの単系統群に分類される。両者ともに分布域はほぼ重複しており、どちらもおよそ500~1000万年ほど前に陸から海へと移行したと考えられているが、エラブウミヘビ類はわずか8種しか記載されていない一方で、ウミヘビ類は60種以上が記載されている。 2021年度は、ウミヘビ類に着目して、彼らが種分化しやすい原因を探った。従来は台湾が分布北限であったウミヘビ類の種Hydrophis storkesii(ヨウリンウミヘビ)が今年度新たに沖縄本島沿岸で発見されたため、その個体のDNA抽出・全ゲノムショットガン解読を行った。加えて、日本沿岸に生息するウミヘビ類のほぼ全ての種のゲノム解読を完了した。現在これらのデータの集団遺伝学的解析を行っており、エラブウミヘビ類で得られた結果との比較を行うことで、海洋における種分化メカニズムの解明を目指す。 加えて、2021年度は新たに、縄文中期の東京湾内の貝塚から出土する鯨類骨のミトコンドリアDNA解析を行った。カマイルカやハンドウイルカなどのDNA解析を行った結果、東京湾に生息する現生個体のミトコンドリアハプロタイプと同じものであることが解明された。海棲羊膜類は高い移動能力を有するが、それにもかかわらず母系群の分布域が5000年近く不変であることは、彼らの種分化を考える上で重要なデータである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2021年度も、昨年度に引き続きコロナウィルスのパンデミックのために海外出張が不可能となったため、コマッコウを対象とした米国との共同研究は中止を余儀なくされた。本研究の主対象を、2020年度より国内で実施可能なウミヘビ類と古代DNA研究に切り替えた。2021年度は、思いがけない種が沖縄から初記載されたり、新たに古代DNA研究が開始できるなど、想定以上の成果が得られつつある。2022年度の研究完了を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、エラブウミヘビ類と対照的に著しく種分化したウミヘビ類の集団ゲノミクス研究を行うことで、かれらの集団構造はエラブウミヘビ類のそれと比べてどこが異なるのか、そしてなぜ彼らは種分化しやすいのかを明らかにする。また、ウミヘビ類・エラブウミヘビ類は、嗅覚によって交配相手を探索するため、彼らの種分化のメカニズムは嗅覚の進化と密接な関係にあることが示唆されている。今年度は、ウミヘビ類のゲノムにおける嗅覚関連遺伝子の進化の解析や嗅覚に関する行動実験も行う。加えて、縄文貝塚の古代DNA解析を通して、海棲羊膜類の集団としての定住性を評価する。以上を総合することで、海洋における種分化メカニズムの全体的な理解を目指す。
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Causes of Carryover |
古代DNA解析に際して、加速器を利用して年代測定を行ったが、使用した加速器に不具合が見つかり、年代測定解析が年度末を過ぎてしまった。また、ゲノム解読に関しても、コロナの影響で研究計画の変更を行った影響でサンプルの入手に時間がかかったため、今年度の発注となった。このため、本来2021年度中に支払う予定であった加速器使用料やシークエンサー使用料などの支払いが今年度と支払いとなったため、次年度使用額が生じた。これらの解析委託に関して、今年度の発注および支払いを予定している。
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