2021 Fiscal Year Research-status Report
コバイモ類の種分化:花形態と系統の不一致の要因・独特な分布パターンの成因を探る
Project/Area Number |
18K06379
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
布施 静香 京都大学, 理学研究科, 助教 (30344386)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田村 実 京都大学, 理学研究科, 教授 (20227292)
高山 浩司 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60647478)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | コバイモ節 / 日本固有 / 分子系統 / MIG-seq / 花形態 / 訪花昆虫 / 絶滅危惧植物 / スプリング・エフェメラル |
Outline of Annual Research Achievements |
コバイモ節(コバイモ類)Fritillaria sect. Japonicaは、ユリ科バイモ属の多年生草本で日本固有種のみから構成される春植物(スプリング・エフェメラル)である。昨年度までに行ったDNA解析(葉緑体11領域と核2領域の塩基配列を用いた分子系統解析、MIG-seq法によるゲノムワイド解析)によって、種間・集団間の葉緑体系統と核系統の不一致がどのようにして起こったのかを推定・考察するための解析結果を得ることができ、コバイモ節が予想以上に複雑な種分化経路をたどってきたことが明らかになった。 今年度は、これまでの解析の結果、現在は同種と考えられているものの、葉緑体または核の系統が互いに異なるグループについて、その分布範囲を決定するために追加のサンプリングを行った。また、過去の交雑によって種分化したと考えられる種と、現在も交雑が進行中の雑種集団を区別するため、詳細な形態観察と現地での生育環境の調査を行った。 訪花昆虫調査では、昆虫の同定と体表面についた花粉の観察、および昆虫の行動調査を進めた。その結果、ホソナバコバイモでは、ハチ目:Andrena属2種、Halictus属1種、Sphecodes属1種、Nomada属1種、Bombylius属1種、ハエ目:Empis属1種、コウチュウ目:Staphylinidae科2種が花の中に入り込み、いずれの種も体表面に花粉が付着している事が確認された。一般にAndrena属やHalictus属では、有効な送粉者は花粉運搬毛を持つ雌個体とされるが、花粉運搬毛を持たない雄個体の体表面にも多くの花粉が観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コバイモ節全種を対象とした葉緑体系統樹を構築することによって、本節内に2つの系統(染色体基本数がX=11とX=12の系統)が存在し、それぞれの系統に分かれた後に3タイプの花形(筒形、広鐘形、傘形)が分化したことが明らかになった。さらに、葉緑体の塩基配列による分子系統とMIG-seq法による種間・集団間の遺伝的交流程度の結果を照らし合わせることにより、コバイモ節各種において葉緑体系統と核系統の不一致がどのようにして起きたのかを推定することができた。また、コバイモ節植物は、8種、2種内分類群、3雑種を認めることが妥当であることが判った。また、私たちの分子系統解析により、コバイモ節は筒形の花が祖先的であると推定された。 また、ホソバナコバイモについて、送粉に寄与していると考えられる訪花昆虫の種類を明らかにした。これは、筒形の花を持つコバイモ節植物の訪花昆虫の初報告である。 一方で、追加でサンプリングした個体のDNA解析と分類学的整理が遅れている。また、野生動物による食害のため、一部の調査集団で予定していた調査が実施できなかった。よって、全体の評価としては上記区分となる。
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Strategy for Future Research Activity |
追加でサンプリングした個体のDNA解析を行ってデータを補完し、系統関係と種間・集団間の遺伝的交流の程度、外部形態形質に基づいて、コバイモ節の分類学的整理を行う。 本研究で得られたコバイモ類の系統関係、遺伝的交流の程度、形態、訪花昆虫(送粉者等)の各情報を総合し、コバイモ類の花形と系統の不一致の要因と、独特な分布パターンの成因について考察する。
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Causes of Carryover |
野生動物による食害のため、一部の調査集団で予定していた調査が実施できなかった。代替となる野外調査は2022年度に実施する。また、追加のDNA解析を実施する。
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Research Products
(1 results)