2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K06380
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
藤浪 理恵子 京都教育大学, 教育学部, 講師 (40580725)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 維管束植物 / 形態進化 / 分枝 / 根 / 茎 |
Outline of Annual Research Achievements |
維管束植物は、根、茎、葉という3つの基本的な器官をもち、それらの様々な組み合わせによって複雑な形態がつくられる。多様な形を生み出す要因の一つとして「分枝」という特徴があり、多くの維管束植物(シダ植物、裸子植物、被子植物)は種ごとや生育環境など様々な状況に応じて、根と茎を分枝させ、植物体を形づくる。植物の分枝の進化的な歴史は古く、約4億年前にコケ植物段階からシダ植物段階へと進化した時、1本の胞子体の軸が二又に枝分かれ(分枝)したと考えられている。分枝の形態を獲得後、茎、葉、根が進化して維管束植物の多様な形態が生じたと推定されていることから、分枝は植物進化にとって重要な形質である。しかし、初期の維管束植物の分枝がどのように生じて進化したのかという道筋は未だ明らかではない。分枝の形態進化を解明するために、鍵を握るのがシダ植物小葉類である。小葉類は現生の維管束植物の中で最も原始的な形質を残しており、二又分枝する。さらに、二又分枝だけでなく多様な分枝様式ももつ可能性が推測され、初期の維管束植物の分枝の進化過程を推定する上で、非常に良いモデルとなり得る。本研究では、シダ植物小葉類の根と茎の分枝の形態進化を解明することを目的とし、根と茎の分枝時における頂端分裂組織の動態について、EdU蛍光法とRNA in situ Hybridization法、および植物ホルモンの投与実験を行い、発生解剖学的に解析を行った。その結果、ヒカゲノカズラ科の根と茎の分枝は他の維管束植物とは異なる独自の分裂動態をもち、他の小葉類も同様であることが明らかになってきた。また、植物ホルモンを用いた培養実験から、小葉類の根の形成にオーキシンが関与し、外生的な分枝形成を制御していると推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シダ植物小葉類のヒカゲノカズラ科に属するヒカゲノカズラとトウゲシバ、イワヒバ科のコンテリクラマゴケの根と茎を用い、分枝時の根頂端分裂組織と茎頂分裂組織の動態について解析を進めている。根の分枝は、ヒカゲノカズラとトウゲシバにおいて、根頂端分裂組織が二分されることによって生じることが明らかになってきている。一方、イワヒバ科のコンテリクラマゴケの根は1つの頂端細胞をもち、ヒカゲノカズラ科とは異なる根頂端分裂組織の構造で分枝様式がヒカゲノカズラ科と同様であるかは不明であった。現段階の解析から、根の分枝時には元の頂端細胞が消失し、新たな2つの頂端細胞が生じる可能性が高く、ヒカゲノカズラとは異なると考えられ、さらに解析を進めている。茎の分枝に関しては、ヒカゲノカズラとトウゲシバで茎頂分裂組織内に存在するOC様領域が分裂細胞群によって分断されることにより分枝すると考えられ、根の分枝様式との比較が可能である。また、オーキシン処理による根の形態形成の解析実験を進めている。ヒカゲノカズラとトウゲシバを野外から採集し、合成オーキシンNAAとオーキシン阻害剤NPAを用いて人工気象器内で培養し、根の成長に及ぼすオーキシンの影響について観察を行った。その結果、ヒカゲノカズラの根では二又分枝時は影響がみられなかったが、三又分枝が形成される段階で、根の発生のタイミングが通常より遅れて生じたり、根の内部から形成されたように見られる。また、根冠の形成がみられず、根頂端分裂組織の正常な分裂が行われていないことが観察された。また、トウゲシバにおいても二又分枝の形態に特に変化は見られなかったが、根の先端が肥大する、根毛が形成されないなどの形態が生じ、ヒカゲノカズラと共通する反応もみられた。オーキシン処理実験において、EdU取り込みによる細胞分裂動態解析も組み合わせ、根の分枝時の解析をさらに進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
根の分枝について、ヒカゲノカズラ科に加え、頂端細胞をもつイワヒバ科(コンテリクラマゴケ)を重点的に継続して行う。イワヒバ科は、シダ植物大葉類と同様に1つの頂端細胞をもつ構造であるため、小葉類と大葉類の根の形成を比較するうえで重要である。オーキシン処理実験は、ヒカゲノカズラで観察された反応についてさらに解析を行うとともに、均等な二又分枝を連続して行うトウゲシバの根におけるオーキシンの影響について解剖学的解析と細胞分裂動態解析を進める。根の形態形成のオーキシンの働きは、モデル植物での理解が大きく進んでいる。その知見から、シダ植物小葉類の二又分枝の形成にどのようにオーキシンが関与しているのか、関連する発現遺伝子群の存在や機能について検討を行う。また、小葉類の茎の分枝は、ヒカゲノカズラとトウゲシバでRNA in situ Hybridization法による発現解析から動態を明らかにするとともに、分枝形成に関わる遺伝子群の機能についても解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
今年度の植物の採集調査はヒカゲノカズラ科に重点を置いたため、他の2科の調査が当初の予定よりも減少した。次年度では小葉類3科の採集調査を行い、小葉類3日の根と茎の分枝の形態形成の総括を行う。また、遺伝子発現解析実験の実施が当初の予定よりも遅れているため、次年度では関連する試薬と器具類の購入を行い、さらに解析を進める。
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Research Products
(3 results)