2021 Fiscal Year Research-status Report
ダニ類最後のエニグマ(謎):ニセササラダニ類の進化的変遷
Project/Area Number |
18K06392
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
島野 智之 法政大学, 自然科学センター, 教授 (70355337)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
蛭田 眞平 独立行政法人国立科学博物館, 分子生物多様性研究資料センター, 特定非常勤研究員 (80624642)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 系統分類学 / ダニ学 / 動物分類学 / 汎ケダニ目 / 汎ササラダニ目 / 胸板ダニ上目 |
Outline of Annual Research Achievements |
胸板ダニ類の系統推定において,核遺伝子では18S rRNAや28S rRNA(主にD3領域),EF1-alpha,HSP82が,ミトコンドリア遺伝子ではCOIが主に用いられている.今年度行ったショットガンシーケンスでは,最小5ngの抽出DNAよりほぼすべての上述のマーカーを含む塩基配列決定が可能であった.個体が小さいためDNAおよびRNA量の確保が難しい分類群であるダニ類において,エタノール固定された1個体からでも系統推定に十分な配列を確保する方法を確立した. 超並列シークエンサーから出力される配列データは以下の流れでの配列決定方法を確立した.出力ファイル(fastq)をfastpでのフィルター処理の後,GetOrganelleでのアセンブリを行う.続いて,Ugeneでのde noveアセンブリを行い,その結果をBandageに読み込ませ,各種遺伝子配列捜索を行い.さらにCLC Genomics Work Benchでのde novoアセンブリとmap readによる確定を行った. プロテイン・シークエンサーを用いて,糸合成遺伝子の多様性から胸板ダニ類の系統推定を試みる手法も用いた(Arakawa et al., 2022).この報告では,Grbic et al. (2011)がNature誌でディスカッションした糸合成遺伝子が間違っていることを指摘した.ケダニ亜目のヤワスジダニ科では,ミトコンドリアゲノムの完全長を報告した(Hiruta et al., 2022).また,ヤワスジダニ科のカタツムリダニの宿主と分布について報告を行った(脇ほか,2022a, b).ハマベダニ上科のササラダニ類については,新種記載と総説をまとめ次の研究の大きなテーマとなるような,進化戦略への新たな知見もえられた(Pfingstl et al, 2022a, b, c).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採集と同定の難しいクシゲマメダニ亜目とニセササラダニ亜目,および,採集の難しいササラダニ亜目の下等な分類群についてについて,新たに遺伝子解析用に,サンプリングを行うことができたこと,さらに,形態情報から同定をおこなうことができ,ショットガンシークエンスまで行うことができた. 以前,失気門団というひとつの分類群であったが,形態情報によって2つの亜目とすることが提案されたクシゲマメダニ亜目とニセササラダニ亜目であるが,18S rDNAから得られた系統樹では,ニセササラダニ亜目は汎ササラダニ亜目内でクレードをつくったため,2亜目の体系は18S rDNAにもとづいた系統樹からは支持された.ショットガンシークエンシングにより核および,ミトコンドリア上の複数の遺伝子座のシークエンス結果は全体的にそろった.しかし,ショットガンシークエンシングの結果は下等ササラダニ類に共通したミトコンドリア遺伝子の異常形態が得られたので,今後サンガーシークエンスによって,これを確認する必要がある. なお,現在ダニの高次分類についての一つ目の高次分類の提案を投稿中である.
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Strategy for Future Research Activity |
ミトコンドリアゲノムについては,MITOS2を用いて,アノテーションの付与を行っている.一部tRNAは発見できなかったので,ARAGORNによって検索し,これでも見つからない場合は,アンチコドン配列を手動で捜索し,RNAFoldによる2次構造推定を頼りに遺伝子領域決定を行っている.下等ササラダニ類に共通したミトコンドリア遺伝子の異常形態が得られたので,今後サンガーシークエンスによって,これを確認する必要がある. 以上のことにより,ニセササラダニ類の分類学的位置を検証するとともに,胸板ダニ上目全体の高次体系について総合的に議論し,必要に応じて次の新しいダニ類の体系を提案する.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの流行によって,打合せの機会が減り解析などが遅れているため. 遺伝子配列の解析を早めに行い解析をすすめる.12月に計画されている国際学会での成果発表を行う. また,新型コロナウイルスの流行によって,学会発表などの旅費が減少した.しかしながら,学会発表は減少したものの,この分の論文発表などを増加させることができた.また,旅費が節約できた分,次年度の遺伝子解析にこれを使用し,さらに解析の精度をあげて,最終年度の成果発表に望みたい.
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