2022 Fiscal Year Research-status Report
日本海要素植物の進化史:ゲノムワイド多型を用いた比較分子系統地理によるアプローチ
Project/Area Number |
18K06394
|
Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
岩崎 貴也 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 講師 (10636179)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 地域固有種 / 種分化 / 系統地理 / 最終氷期 / 第四紀 / 日本海要素 / 気候変動 / 集団ゲノミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
日本全国から採集したスミレサイシン節5種のサンプルについて、GRAS-Di解析によって得られるゲノムワイドSNPsを用い、種間の系統解析と、種内の分布域を網羅した系統地理解析の両方を同時に行った。その結果、スミレサイシン節5種が第四紀中の約130万年前から40万年前ほどの間に種分化した種群であること、各種内の地域集団は十数万年前から数万年前の分岐であることなどが明らかとなった。本研究で着目した日本海要素のスミレサイシンと、太平洋側のソハヤキ要素的な分布を示すナガバノスミレサイシンは、5種の中で最後に分岐した姉妹種であることが明らかとなり、その分岐は40~50万年前と推定された。また、種内系統の最も古い分岐年代はスミレサイシンで10~14万年前、ナガバノスミレサイシンで31~43万年前と推定され、種間交雑による遺伝子流動は検出されなかった。生態ニッチモデリングによる氷期中の分布適地推定では、スミレサイシンは日本海側、ナガバノスミレサイシンは太平洋側にのみで、現在よりも狭くなった分布適地の存在が予測されたことから、この2種は第四紀中の最終氷期ではない以前の氷期で日本海側と太平洋側に分断されて種分化し、その後は独自の歴史を経てきたことが示唆された。種内の遺伝構造は、両種ともに東西方向の3地域に分化しており、生態ニッチモデリングでもそれに対応する主要な3地域のレフュジアの存在が推定された。これらの結果から、これら2種は日本海側・太平洋側の2地域に隔離されて種分化した後、それぞれの地域内で東西方向での分布拡大と縮小を繰り返しながら日本列島内での気候変動を生き延びてきたと考えられる。似た遺伝的分化の地理的パターンは地域固有種の存在が知られていない広域分布種でも報告されており、日本列島内の温帯林構成種に広く共通する分化プロセスである可能性が高いと思われる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに採集したスミレサイシン節のサンプルについてGRAS-DiによるゲノムワイドSNPs解析を行い、当初の計画通り、種間の系統分化と種内の系統地理分化を同時に解析することで、日本列島内での地理的な遺伝的分化の形成プロセスについて明らかにすることができた。ただし、2022年度は解析結果の学会発表までに留まっており、早急に論文化を行う必要がある。また、先に解析を行ったミスミソウ類との比較も不十分であり、両者を統合した解析を行う必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究期間を更に1年延長し、スミレサイシン節、ミスミソウ類の解析を更に進めるとともに、学術論文としての出版を最優先に取り組む。スミレサイシン節については海外産種についてもサンプルを入手できる見込みであり、2023年度のできるだけ早い段階で追加解析を行い、学術論文に含める。
|
Causes of Carryover |
2022年度中に学術論文の出版までを行うことができなかったため、2023年度予算に学術論文出版のための費用として英文校閲費を残した。
|