2020 Fiscal Year Research-status Report
島の鳥の適応放散はなぜ起きるか―数理モデルと幾何学的形態測定学によるアプローチ
Project/Area Number |
18K06397
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Research Institution | Yamashina Institute for Ornithology |
Principal Investigator |
山崎 剛史 公益財団法人山階鳥類研究所, 自然誌研究室, 研究員 (70390755)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
島田 将喜 帝京科学大学, 生命環境学部, 准教授 (10447922)
荻原 直道 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (70324605)
小林 豊 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 准教授 (70517169)
土岐田 昌和 東邦大学, 理学部, 講師 (80422921)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 適応放散 / 種分化 / 数理モデル / シミュレーション / 幾何学的形態測定学 / 鳥類 |
Outline of Annual Research Achievements |
「適応放散はなぜ起きるのか?」この問いは、ダーウィン以来、何世代にも渡って多くの生物学者を魅了し続けてきた。私たちは、令和元年度、島の鳥の適応放散から着想を得て、分散力の進化的変化により適応放散を説明する数理モデルを開発した。令和2年度にはこのモデルをさらに発展させた。 さまざまな条件のもとでシミュレーションを重ねたところ、私たちのモデルは、分散力の進化可能性というシンプルな仮定のみに基づくにもかかわらず、より複雑な仮定を用いる既存の理論よりずっとうまく適応放散の経験論的パターンを説明できることがわかった。とくに、最近のゲノム規模の系統学的研究によって多数見いだされた系統の星状のスプリット(多数の子孫種が一斉に生じる現象)は、既存の理論のもとでは「パラドックス」であったが、新しい理論はそれを何の問題もなく説明できることが明らかになった。また、私たちは、開発した理論に照らし、適応放散の起きやすい系統、起きにくい系統があるのはなぜかについても考察を進めた。 私たちが作り上げた理論は、既存の理論に従う適応放散の存在を否定するものではないものの、それより生物学的にずっとリアルで、ずっとありふれた条件に基づき、適応放散を説明している。この理論に照らせば、適応放散は最早謎ではなく、生態学的機会と分散力の進化可能性の必然的帰結だと結論される。 このほか、令和2年度中には、これまでに撮りためたクイナ科鳥類の頭骨のX線CT画像を活用して脳形態の進化に関する関連論文を執筆し、国際誌に投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「適応放散のよく起きる系統とあまり起きない系統があるのはなぜか」という当初の問いに対し、答えを与えることができた。開発した理論に照らすと、これには分散力の進化的変化の起きやすさが関係している可能性がある。また、生殖隔離の異所的な進化の起きやすさも、適応放散の起きやすさを説明する要因かもしれない。 さらに、この理論は、鳥類だけに限らず、多くの生物群に一般的に適用可能で、適応放散の既存理論に比べ、よりシンプルな仮定だけに基づきながらも、より多くの経験論的パターンを説明できる。これは当初の想定をはるかに上回る成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、元々、数理モデルによる研究と幾何学的形態測定学による研究の2つのパートに分けられていた。前者は独創性に富み、当初の想定をはるかに上回る成果を挙げている一方、後者は他の研究者の提案した説の後追いにすぎない。 前者の研究の予想外の進展により、論文執筆に必要なシミュレーションと文献調査の規模が当初計画よりずっと大きくなった。今後は研究期間を延長するとともに、後者の研究計画の実施を一部取りやめて前者に資金とエフォートを集中させることにした。
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Causes of Carryover |
数理モデルによる研究が当初計画をはるかに上回る成果を出したことにより、論文執筆に必要なシミュレーションと文献調査の規模が当初の想定より大きくなったため。
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