2019 Fiscal Year Research-status Report
「管理された氾濫原」水田の動物プランクトンの生態・遺伝的特性とベータ多様性
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18K06407
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
牧野 渡 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (90372309)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 生物多様性 / 水田 |
Outline of Annual Research Achievements |
今日の日本では、国土の数%という広大な面積に水稲が作付けされている。俯瞰すれば、ほぼ全国共通のタイミングで田圃に水を入れ、また田圃から水を抜き去っていると言える。このような「管理された氾濫原」とも言うべき「水田」は、古来の氾濫原湿地性生物の生息場所として、現在までに多大な貢献をしてきたと認識されているが、その一方で湛水時期を(ほぼ)統一しているため、古来の氾濫原湿地性生物に、湛水時期という淘汰圧をかけて来た、とも言える。ただし、この淘汰圧をくぐり抜け現世の「管理された氾濫原」である「水田」に棲息する生物がもつ生態特性と、それを可能にする遺伝的背景については、理解が進まないまま現在に至っている。本研究は、この未知領域を取りあげ水田の生物多様性の成立過程に関する理解を深めることを目指している。2019年度には、夏季に水田植物(イネ以外の、いわゆる水田雑草)が繁茂する水田と、水田植物が繁茂しない水田との間で、微小甲殻類相を比較し、種組成に差があるか否かの検討を行った。また採集で得られた微小甲殻類のDNAバーコードを得るための、ラボ飼育系統の作成も行った。これらに加えて、水田(=湛水時期が比較的短い)と湖沼・ため池(=湛水時期が比較的長く、数年間継続されることも多い)」との間で出現種が異なることが判明しているタマミジンコ属8種について、遺伝子の構造に湛水期間の長短に応じた差が見られるか否かを調べるための、定量PCR解析の手法検討も行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は微小甲殻類(動物プランクトン)を材料とし、湛水期間が短い「水田」のタクサでは、湛水期間がより長い「湖沼・ため池」のタクサよりも成長が早く、その結果世代時間が短縮する可能性と、その遺伝的基盤として、リボソームRNA遺伝子のコピー数が多い可能性、を検証する予定である。2019年度には、リボソームRNA遺伝子のコピー数が多い可能性を検証する際に必要となる、定量PCR用のプライマーセットを多数設計することができた。これに加えて、当初の目的に沿った野外採集も行い、必要な試料も得た。さらに水田に出現する微小甲殻類(動物プランクトン)のDNAバーコードの取得も継続中である。これらのことから、研究申請時に計画していた項目は、およそ順調に消化できていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
水田の農法が、水田の微小甲殻類(動物プランクトン)の多様性に与える影響を調べるために必要な試料は、2018-2019年度でほぼ集めることができた。2020年度はこれらの試料を詳細に解析していく予定である。なお、新型コロナウィルスの影響で、関東東海地方での水田土壌(枝角類の休眠卵が含まれている)の採集を2020年度に延期したため、この採集は改めて行う予定である。 定量PCRに関しては、プライマーの設計まで進んだが、実験条件の最適化には至っていない。実験条件の最適化が完了し次第、野外で採集されたタマミジンコ個体を定量PCRに供する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響にて、関東東海地方の水田土壌(枝角類の休眠卵が含まれている)の採集を取り止めたため、旅費および試料採取と解析にかかる消耗品費の執行額が減少した。この減少分は、当該地方への採集旅費および試料採取と解析にかかる消耗品費として、2020年度に使用する予定である。
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