2019 Fiscal Year Research-status Report
咲かないランはいつから自殖だけなのかーヤツシロラン類の比較遺伝解析による検証
Project/Area Number |
18K06408
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
兼子 伸吾 福島大学, 共生システム理工学類, 准教授 (30635983)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
末次 健司 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (70748839)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マイクロサテライトマーカー / 完全閉花授粉植物 / 遺伝的多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
開放花を一切持たないヤツシロラン属植物が近年次々に発見された。次々に発見されたこれらのヤツシロラン属植物と近年の遺伝解析技術の発展は、これまで切望されながらも、その希少性故に難しかった完全閉花受粉植物の本格的な調査研究を可能にするものである。本研究では遺伝解析データに基づき、自殖が繰り返された世代数や種や集団の分岐年代を推定する。最終的に、完全閉花受粉植物の遺伝的多様性の現状やその持続性などについて知見を得ると共に、被子植物の根源的な特徴である開放花や他殖の意義について、ヤツシロラン属植物を通して再考する。 これまでにタケシマヤツシロランとトカラヤツシロランについて計30遺伝子座のマイクロサテライトマーカーを開発した(Kishikawa et al. 2018, Ogaki et al. 2019)。これらのマーカーを使うことにより、対象とするヤツシロラン属植物の遺伝的多様性や繁殖の現状、系統関係等の推定が可能となった。 現在、これまでに収集した500以上のサンプルについて、これらのマーカーを用いた遺伝子型の決定を行っている。また、当初は想定していなかった開放花と完全閉鎖花との中間的な形態を有する分類群や雑種も近年発見されており、それらについてもデータ解析を進めている。種内系統関係のような基本的な知見に加え、完全閉花授粉植物における遺伝的多様性の消失や開放花をつける祖先種における低い遺伝的多様性など、完全閉花受粉植物の進化や種分化過程を推測するうえで、重要なデータが得られつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに研究対象として利用可能なヤツシロラン属植物について500以上のサンプルを収集した。これらのサンプルは様々な産地から収集されている他、明確な開放花や閉鎖花を持つ種だけでなく、ツツザキヤツシロランなどの中間的な形態を持つ種のサンプルも含まれており、完全閉花受粉植物の進化や種分化過程を推測するうえで重要なサンプルとなることが期待される。 現在、これらのサンプルについて、タケシマヤツシロランとトカラヤツシロランから開発した計30遺伝子座のマイクロサテライトマーカーで遺伝子型の決定を進めている。タケシマヤツシロランから開発したマイクロサテライトマーカーのなかで、すべての分類群で良好な結果を示した12遺伝子座についてはほぼデータが出揃っている。それらのデータは各分類群における遺伝的多様性の現状や種間系統関係、あるいは種内に複数の異なる遺伝的グループの存在、多様な分類群の起源となる遺伝的なグループが存在することなどを示している。 完全閉花授粉植物のタケシマヤツシロランとクロシマヤツシロランの2種においは、種内において多型が全く存在しないことが明らかとなった。これらの結果は、両種がそれぞれ1回の進化に由来すること、自家受粉の実で一定数の世代数を経過していることなどを示している。タケシマヤツシロランの対立遺伝子がハルザキヤツシロランに極めて類似していた。その一方で,クロシマヤツシロランにおいてはトカラヤツシロランと対立遺伝子の類似性が低く,2系統で分岐年代が違うことを示している可能性が高い。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで収集したサンプルについて、トカラヤツシロランから開発したマーカーを中心にデータを増やしていく予定である。また、今シーズンの開花期に収集されたサンプルについても順次分析を行っていく。 また、各種の遺伝解析データを総合的に比較、検討することによって、完全閉花受粉植物の遺伝的多様性の現状やその持続性などについて、総合的な知見を得る。ヘテロ接合度や対立遺伝子頻度等の遺伝解析データに基づき、1) 自殖が繰り返された世代数、2) 種や集団の分岐年代、3)過去の集団サイズの変動、4) 種や集団間の遺伝子流動や分布拡大の方向性などを推定する。さらに、5) 完全閉花受粉植物と開放花しかつけない近縁種との間で、2)-4)について比較する。
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Causes of Carryover |
予定していた野外調査の一部が、研究協力者による代行により不要になった。繰越分は,分子実験に必要な消耗品費に使用する予定である。
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