2019 Fiscal Year Research-status Report
タマセンチュウとマルハナバチの関係を解き明かす:行動操作から間接種間相互作用まで
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18K06413
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
石井 博 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (90463885)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | マルハナバチタマセンチュウ / マルハナバチ / 寄生虫 / 行動操作 / 水平感染 / 外来種 |
Outline of Annual Research Achievements |
北海道ではセイヨウオオマルハナバチを含む5 種のマルハナバチから、マルハナバチタマセンチュウの感染が確認されている。これらの中にセイヨウオオマルハナバチとともに日本に侵入してきた外来系統のタマセンチュウが紛れ込んでいるかどうかを明らかにするため、日本のセイヨウオオマルハナバチの移入元である、オランダとベルギーでマルハナバチタマセンチュウの採取を行った。その結果、採取を試みた5地点のうち、半世紀以上も前の文献(Poinar & van der Laan 1972 Nematologica 18:239-252)でタマセンチュウが確認されていた2地点(オランダ)でのみ、複数種のマルハナバチ女王からタマセンチュウの感染が確認された。この結果は、これまでの結果から示唆されてきた、タマセンチュウに感染した女王が移動分散しなくなるため、感染地域が同じ場所で局所的に複数年にわたって維持されるという仮説を、強く支持するものであった。 現在までに、オランダで採取したタマセンチュウサンプルから、ミトコンドリアCO1遺伝子の配列配列を読みとり、日本とイギリス、アイルランドで採取したタマセンチュウのそれと比較を行っている。現時点ではサンプル数は少ないものの、オランダのタマセンチュウの遺伝配列は、日本のセイヨウオオマルハナバチを含む、どのマルハナバチから得られたタマセンチュウの遺伝配列とも異なる一方で、イギリス、アイルランドで採取したタマセンチュウの遺伝配列とは高い相同性を示した。一方、北海道のセイヨウオオマルハナバチから得られたタマセンチュウの遺伝配列は、北海道の在来種から得られたタマセンチュウの遺伝配列と高い相同性を示している。この結果は、北海道のセイヨウオオマルハナバチに感染しているタマセンチュウは、在来のマルハナバチからの水平感染であることが示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マルハナバチタマセンチュウは、局所的には非常に高い感染率を示し、その地域の送粉系群集にあたえるインパクトは大きいものの、大きな空間スケールで見たときの感染率は低く、初めて訪れた場所でそのサンプルが得られる確率は低い。そのため、2019年度の最大の目的であった、オランダのマルハナバチ個体群からのマルハナバチタマセンチュウのサンプル採取は、いくらかチャレンジングな試みであった。しかし、オランダとベルギーで採取を試みた5地点のうち、半世紀以上も前の文献(Poinar & van der Laan 1972 Nematologica 18:239-252)でタマセンチュウが確認されていた2地点(オランダ)では、予想していた以上に多くのサンプルを得ることができた。2地点で複数種のマルハナバチ種からサンプルをえることができたため、これらのサンプルをもちいることで、これまで日本で行ってきた、同一地域内の異種ホストに感染していたタマセンチュウ個体群間の遺伝構造の比較や、別地域の同種ホストに感染していたタマセンチュウ個体群間の遺伝構造の比較を行うことが可能になった。ただし、遺伝解析は当初の予定よりやや遅れている。これらを総合し、概ね順調とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、まず北海道の在来マルハナバチ種に感染しているマルハナバチタマセンチュウの採取を行い、集団遺伝学的解析を行うためのサンプル数の充実を図る。そして、2019年度にヨーロッパで得たマルハナバチタマセンチュウのサンプルを含む、これまでに各地域で採取してきたマルハナバチタマセンチュウの、ミトコンドリア遺伝子CO1領域(約500bp)と核遺伝子18SrRNA-28SrRNA領域(ITS1,2領域を含む 約2500bp)の解析を行う。得られた結果を集団遺伝学の視点から解析し、「マルハナバチタマセンチュウは宿主の移動分散を(どの程度)抑制しているのか」「マルハナバチタマセンチュウによる感染はどのように空間伝播するのか」「タマセンチュウには隠蔽種がいるのか / マルハナバチ種間でタマセンチュウの水平感染は(どの程度)起きているのか」「外来系統のマルハナバチタマセンチュウの侵入は起きているのか」といった諸問題を明らかにする。また、オオマルハナバチとトラマルハナバチの感染女王が夏に高頻度で見られる地域と、それらの感染が見られない地域で、各植物種を訪れる訪花者の組成を記録する。得られたデータを元に、地域間で花形態と訪花者形態の一致の程度等を比較し、訪花者たちの訪花ニッチに変化が見られるかどうかを検討する。得られた結果をまとめ、複数の学術論文として投稿する。
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Causes of Carryover |
2020年度は海外採取調査を行うことになっていたが、申請予算にくらべ減額された金額では、いささか予算の不足が見込まれたため、2019年度に遺伝解析の試薬等を節約し、2020年度に繰り越ししていた。しかし、2020年度の予算執行額が、2020年度の予算額と近かったため、結果的に、2019年度に繰り越した分が、2021年度まで繰り越されることになった。2021年度は、主に北海道調査旅費に加え、これまで節約していた分の遺伝解析用試薬を購入する予定である。
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