2020 Fiscal Year Research-status Report
タマセンチュウとマルハナバチの関係を解き明かす:行動操作から間接種間相互作用まで
Project/Area Number |
18K06413
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
石井 博 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (90463885)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | マルハナバチタマセンチュウ / 寄生虫 / 宿主操作 / 集団遺伝構造 / 移動分散抑制 / 水平感染 |
Outline of Annual Research Achievements |
マルハナバチタマセンチュウはマルハナバチの女王に寄生し、その行動を操作する寄生虫である。寄生された女王は不妊化し、営巣しなくなることが知られている。しかし、この寄生虫に関する研究は非常に少なく、その生態に関しては曖昧な点が多い。 本研究の目的は、マルハナバチタマセンチュウが宿主の移動分散を抑制しているのか、宿主種間で水平感染が起きているのか、を明らかにすることである。これらの目的のため、富山県と北海道で採取したマルハナバチ複数種と、富山県、北海道、オランダ、イギリス、アイルランドで採取したマルハナバチタマセンチュウの集団遺伝構造を解析した。マルハナバチの遺伝マーカーには8つのマイクロサテライト領域を、マルハナバチタマセンチュウの遺伝マーカーにはミトコンドリア遺伝子CO1領域(417bp)と核遺伝子18SrRNA~28SrRNA領域(ITS1,2領域を含む、約2500bp)を用いた。 以下の結果が得られた。100㎞以下の空間スケールでは、同種のマルハナバチ集団には遺伝的な分化は生じていない。100㎞以下の空間スケール内でも、同種のマルハナバチ種に感染しているマルハナバチタマセンチュウの地域集団間には、顕著な遺伝的な分化が生じている。同じ場所で採取された別種のマルハナバチに感染していたマルハナバチタマセンチュウの集団間には遺伝的な分化が生じている。ミトコンドリアハプロタイプが同じマルハナバチタマセンチュウや、核の遺伝子型が同じマルハナバチタマセンチュウが、複数の異なる宿主種に感染している。 以上の結果からは、マルハナバチタマセンチュウに感染したマルハナバチ女王の移動分散が、強く抑制されていることが伺えた。また、宿主種間での水平感染は、低い頻度ではあるものの、起きていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの影響で、北海道で予定していたマルハナバチタマセンチュウの採取ができなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、新型コロナウイルスの感染状況次第ではあるが、2020年度に行うことができなかった北海道でのマルハナバチタマセンチュウの採取を試みる。そして、2019年度にヨーロッパで得たマルハナバチタマセンチュウのサンプルを含む、これまでに各地域で採取してきたマルハナバチタマセンチュウの、ミトコンドリア遺伝子CO1領域(約500bp)と核遺伝子18SrRNA-28SrRNA領域(ITS1,2領域を含む 約2500bp)の、さらなる解析を行うことで、データ量の拡充を図る。これまでに引き続き、得られた結果を集団遺伝学の視点から解析し、「マルハナバチタマセンチュウは宿主の移動分散を(どの程度)抑制しているのか」「マルハナバチタマセンチュウによる感染はどのように空間伝播するのか」「タマセンチュウには隠蔽種がいるのか / マルハナバチ種間でタマセンチュウの水平感染は(どの程度)起きているのか」「外来系統のマルハナバチタマセンチュウの侵入は起きているのか」といった諸問題を明らかにする。得られた結果をまとめ、学術論文として投稿する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの蔓延により、予定していた北海道でのサンプリングができなかったため。2021年度は、コロナウイルスの感染状況に応じてサンプリングの可否を判断し、採取ができそうな場合は繰り越し分はサンプリングのための旅費に充てる。採取がかなわない場合は、すでにあるサンプルをつかってデータを拡充すべく、遺伝解析のための費用に充てる。
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