2019 Fiscal Year Research-status Report
冬尺蛾における平行進化現象の理解に向けた生活史調節機構とその遺伝的基盤の解明
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18K06415
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山本 哲史 京都大学, 理学研究科, 助教 (10643257)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 季節適応 / 種分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
冬季活動性のシャクガ科蛾類の1種であるクロテンフユシャクでは、寒冷地において初冬に繁殖する初冬型と晩冬に繁殖する晩冬型がある。同所的に生息するこれら2つの集団間には遺伝的隔離があり、これは繁殖期が分離していることが原因であることがわかっている。繁殖期を分離させた進化的要因を解明するため、本年度は初冬型、晩冬型の両型を飼育して、羽化の季節を制御する要因を探索した。両型とも約300個体の蛹を準備し、全暗条件のもと季節に合わせた気温変化で飼育した。この際、温度変化は季節変化のみとし日周変動は与えなかった。この飼育条件のもと、初冬型は夏の高温(摂氏23度)から晩秋の気温(摂氏5から10度)でほぼ一斉に羽化した。晩冬型は、初冬型と同じ条件では羽化せず、真冬(摂氏-2度)から春ころの気温(10度)に上昇しても羽化しなかった。一部の晩冬型は真冬を経験した後に、日周の気温変動を与えたところ、晩冬型は羽化した。これらの結果から、初冬型は夏から冬にかけて気温が低下するなかで蛹発生が進み羽化すること、晩冬型は真冬の低温を経験後に日周気温変化がある条件で羽化することがわかった。型間での顕著な違いとして、晩冬型が真冬を経験後に羽化するという点以外に、晩冬型の羽化には日周気温変動が不可欠であることがわかった。今回の飼育では全ての晩冬型に真冬の低温を経験させたため、真冬の低温が必ずしも必要な条件であるかどうかは不明である。 また、初冬型と晩冬型の羽化時期の違いを支配する遺伝的基盤を探索するため、同一地点で採集した初冬型と晩冬型8個体ずつを用いてリシーケンスデータを取得した。これをリファレンスゲノムに照らしてゲノムワイドにSNPを同定し、さらにその中から、初冬型と晩冬型の間で分断選択のかかったSNPを特定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初冬型と晩冬型の羽化時期がどのような環境条件でコントロールされるのかを具体的に明らかにできた。初冬型と晩冬型との間の交配は、QTL解析やGWAS解析などで遺伝的基盤にアプローチする際に必須である。本年の結果をもとに次回のチャンスでは確実に初冬型と晩冬型の交配実験を実施することが可能となると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、これらのSNPに近傍な遺伝子の機能を解明するなどして、飼育実験で解明した羽化条件の違いに関連した機能を持っていいるかどうかを検証する。また初冬型と晩冬型の交配を行い、交雑個体の表現型を明らかにするとともに、QTL解析を行い、ゲノム解析との整合性を確認する。初冬型と晩冬型が同種内にあるクロテンフユシャクに加えて、互いに近縁な初冬型と晩冬型の種であるウスモンフユシャクおよびホソウスバフユシャクを含め、3種でのゲノムを比較するというアプローチでも、初冬型と晩冬型の遺伝基盤を探索する。
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Research Products
(3 results)