2018 Fiscal Year Research-status Report
Ecological study on mating systems of reef fishes demostrating spawning migration
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18K06419
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
坂井 陽一 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (70309946)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 産卵移動 / 魚類社会 / 産卵縄張り / 採餌縄張り / つがい関係 / 繁殖成功 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は研究計画通り、産卵移動をみせる3魚種についてのフィールド調査を実施した。 チョウチョウウオ科フウライチョウチョウウオについては沖縄県瀬底島のサンゴ礁での調査を実施し、個体識別した個体群の社会関係に関するデータを獲得するとともに、安定した雌雄ペア関係の維持機構を分析考察するため、ペア雄あるいはペア雌の除去実験を実施した。その結果、雌が特定の雄個体へのペア選好性を持たないこと、雄は他雄から2個体の雌を長期間防衛することが困難であることが明らかとなった。長距離産卵移動の習性が2個体の雌防衛をより困難としている要因であると考えられた。これらのデータは魚類の一夫一妻社会の形成機構の議論に新展開を提供するものと考えている。今後、論文執筆を進める。 ハコフグ科クロハコフグについては鹿児島県口永良部島のリーフにおいて調査を実施した。本年度は雄の日中と夕刻産卵時の縄張り配置の日周移動パターンについてのデータを獲得した。雄は産卵なわばりを日中の採餌縄張りから100-250m沖合に構え、広い産卵縄張りをもつ雄はより多くの雌と産卵する傾向にあった。これは産卵のために沖合へ移動する雌をトラップできるためであると考えられた。同種の産卵実態に関する詳しいデータを得たのは本研究がはじめてである。産卵移動の背景として、なぜ日中の採餌エリアが浅場にあるのかについての分析を進める必要がある。 ニザダイ科ニザダイについては、鹿児島県口永良部島の標本解剖調査を中心に研究を進め、産卵に関わる生活年周期の明確化を進めた。5月-6月にかけて雌雄ともに生殖腺の発達が顕著となることから産卵期と推察された。また、成熟した大型個体が湾外に多い傾向も認められ、産卵が湾外で行われている可能性が示唆された。産卵場所の特定、および産卵行動の確認を多角的な手法で検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画にある3魚種についての野外調査をすべてほぼ計画通り実施することに成功した。また、3魚種それぞれに関して充実したデータを獲得することに成功した。産卵移動の実態解明はクロハコフグのみ成功したが、ニザダイについては産卵期および産卵エリアの特定に関わるデータを得ることができた。また、フウライチョウチョウウオに関しては、アーカイバルタグを用いた産卵行動の確認を試みたが、タグの回収ができずデータ獲得に失敗した。しかし、社会行動データの充実化と除去実験の実施により、同種における産卵移動が安定した一夫一妻社会の成立に重要な役割を果たしていることが理論的に裏付けられた。クロハコフグにおいては縄張訪問型複婚社会であることが確認されたが、雌の沖合での産卵習性がその成立に主導的役割を果たしていることが示唆された。これらのように魚類社会と産卵移動の関連性についての理論進展に貢献しうるデータ獲得に成功していることから、順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
産卵移動をみせる3魚種について、それぞれの研究進度に応じた推進方策を実施する計画である。 フウライチョウチョウウオについてはデータをとりまとめた論文執筆を進める。 クロハコフグについては、日中の雌雄個体間の社会関係が希薄であるものの、雌雄ともに浅瀬に集中した分布を呈し、主に採餌をしている。この採餌ゾーンと産卵ゾーンの乖離が産卵移動の主因と考えられる。特異的な餌生物を利用している可能性を含め、なぜ浅瀬で採餌を行う必要があるのかに関して野外調査を重点的に進める予定である。 ニザダイについては、流れの早い湾外での産卵が予想されるため、安全確保を最優先としながら、環境DNAやプランクトンネットによる採卵、小型カメラの設置など、アプローチ方法を多角的に検討し、産卵実態の解明を試みる予定である。
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