2018 Fiscal Year Research-status Report
ゼニゴケの植食者に対する多様な防衛能とそのメカニズムに関する研究
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18K06434
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
上船 雅義 名城大学, 農学部, 准教授 (90559775)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高林 純示 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (10197197)
小澤 理香 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (90597725)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 植物防衛 / ゼニゴケ / 直接防衛 / 間接防衛 |
Outline of Annual Research Achievements |
植食者防衛効果の評価として、アワヨトウとハスモンヨトウに対する直接抵抗性を比較した。ゼニゴケを餌とした場合、ハスモンヨトウ幼虫と同様にアワヨトウ幼虫も蛹化できず、3齢から5齢の間に死亡した。ゼニゴケ摂食の影響は、餌を人工飼料に変更すればハスモンヨトウ幼虫では見られなかったが、アワヨトウ幼虫は摂食量が減少したままで発育が悪くなり、アワヨトウの方がハスモンヨトウよりゼニゴケの直接抵抗性が高いと考えられた。また、ハスモンヨトウ幼虫の5齢に進めた割合は、人工飼料に比べて野生株を餌とした場合は有意に低かったが、ジャスモン酸の前駆体であるOPDAを生産できないゼニゴケを餌とした場合は有意差が認められず、OPDAの関与した誘導防衛がゼニゴケの発育阻害に関与していることが明らかとなった。 ナミハダニ卵のふ化抑制がゼニゴケの匂いで起こってるのか評価するために、ゼニゴケ上とゼニゴケに置かれたパラフィルム上のナミハダニ卵のふ化率を比較した。その結果、パラフィルム上のふ化率はゼニゴケ上のふ化率より非常に高く、ゼニゴケのふ化抑制はゼニゴケの匂いで起こっておらず、植物体上の物質に卵が触れることによって起こっていることが示唆された。 ゼニゴケの匂いにナミハダニとその天敵のチリカブリダニがどのように反応するか調べた。ナミハダニは、健全ゼニゴケの匂いに対して反応を示さないが、機械傷ゼニゴケと同種食害ゼニゴケの匂いを忌避した。チリカブリダニは、健全ゼニゴケと機械傷ゼニゴケの匂いに対して反応を示さないが、ナミハダニ食害ゼニゴケの匂いを選好した。従って、ゼニゴケも維管束植物と同様に匂いによる天敵誘引能力を有していることが示された。ゼニゴケの匂いを分析したところ、機械傷ではセスキテルペンが、ナミハダニ食害ではモノテルペンが特異的に放出されており、チリカブリダニの誘引はモノテルペンが影響していると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
植食者防衛効果の評価としてナミハダニとハスモンヨトウより強く直接防衛を受ける植食者種を発見することが、2018年度の目標の1つとなっている。アワヨトウに対する直接抵抗性がハスモンヨトウより高いことが分かったことから、目的は達成できたと考えている。直接抵抗性に関しては目標以上に成果を上げており、ハスモンヨトウの発育阻害はOPDAが関与する誘導防衛が関与していることや、ナミハダニのふ化抑制は植物上に触れることで起こっていることも明らかにした。さらに、ナミハダニ目線からは、ゼニゴケのふ化抑制を網によって回避していることも明らかになってきており、ハダニ類が網を張ることの新たな適応的意義が発見されつつある。 2018年度の目標には、ゼニゴケの天敵誘引能の評価とゼニゴケの放出する揮発性物質の分析もある。天敵誘引に関しては、チリカブリダニが食害特異的にゼニゴケの揮発性物質に誘引されることが明らかになり、目標を達成している。これと同時に、ナミハダニのゼニゴケの揮発性物質に対する反応を調べており、ナミハダニの忌避性は食害特異的な反応ではないことを明らかにし、目標以上の成果を達成していると考えられた。揮発性物質の分析に関してもある程度目標は達成しており、機械傷ではセスキテルペン、食害ではモノテルペンが多く放出していることが明らかとなった。この分析結果は、維管束植物とは異なり面白い結果である。しかし、揮発性物質の分析に関しては、内部標準物質の濃度が濃すぎた問題があったため、今後、内部標準物質の量を検討して揮発性物質の分析を実施して行く。
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Strategy for Future Research Activity |
ハダニ類が網を張る適応的意義は捕食者回避と言われてきたが、植物によるふ化抑制からの回避という新しい意義が見えてきた。そこで、計画を変更し、ナミハダニが網を張ることでゼニゴケのふ化抑制を回避できるかも評価する。 ハスモンヨトウに対する直接防衛は、OPDAが関与した誘導防衛が影響していることが明らかになった。また、匂いによる維管束植物の天敵誘引(間接防衛)は、誘導防衛である。そこで、計画を変更し、OPDAを生産できないゼニゴケを匂い源として用いて、ゼニゴケのチリカブリダニ誘引(間接防衛)が誘導防衛であるかを評価する。また、ナミハダニ食害のゼニゴケの匂い分析は、継続して行い食害特異的な揮発性物質があるかどうかを明らかにする。他の研究においてチリカブリダニの誘引が確認されていない食害特異的な物質が見つかったら、合成品を用いて物質のチリカブリダニに対する誘引性を確認する。植物ホルモンの分析に関しては、ナミハダニなどを用いて、食害によるゼニゴケ体内のジャスモン酸とサリチル酸の変化を調べ、食害誘導的に植物ホルモンが増加するかを評価する。 健全な維管束植物は食害された維管束植物の匂いを受容して抵抗性を高める。ゼニゴケも同様な植物間コミュニケーションをできるのかどうかを明らかにするため、密閉容器などでナミハダニ食害ゼニゴケの匂いを曝露したゼニゴケと健全ゼニゴケの匂いを曝露したゼニゴケ上のナミハダニのパフォーマンスを比較することで、植物間コミュニケーションによりゼニゴケの直接防衛能が向上するかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、論文作成が遅れていることが原因である。本年度は、英文校閲と論文投稿を次年度使用額と本年度予算を合わせて使用して行う。
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Research Products
(2 results)