2019 Fiscal Year Research-status Report
ヒトの中硬膜動静脈の系統発生を記述・解明するための評価枠組みの確立
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18K06440
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
久保 大輔 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (00614918)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 中硬膜動脈 / 眼動脈 / cranio-orbital foramen / 人類進化 / チンパンジー / Homo erectus / ジャワ原人 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、骨標本で観察可能な中硬膜動静脈に関する変異に関して、現生人類と化石人類の形態を比較するうえで有効な評価方法を確立すること、またそれをホモ・エレクトスの化石標本に適用することによって、ヒトにおける中硬膜動静脈の進化の一端を理解することである。2019年度は、頭蓋冠を分離した日本人頭骨78個体分(左右計156例)を対象に、中硬膜動脈のブレグマ枝への供血路に関連しうる形態、すなわち上眼窩裂、上眼窩裂の外側に位置し眼窩壁を貫通する小孔(cranio-orbital foramen)、棘孔、それらの部位間を相互に連絡する頭蓋腔内の血管の溝、さらにそこからブレグマ枝に至る血管の溝の有無・走行・分岐・合流のパターンを調査し、観察例を11の類型に分類する方法を考案した。この分類は、血管の変異に関する既知の情報から導かれるいくつかの推測を基に、眼動脈系の分枝が冠状縫合後部に供血していた可能性が高いものと低いものを区別したり、眼動脈系硬膜枝の推定経路の違いを区別したりできるように設計された。現代人での出現率が低いがアフリカ類人猿での出現率が高い特徴の一つに、冠状縫合より後部に向かう眼動脈系硬膜枝が、上眼窩裂ではなくcranio-orbital foramenを経由して中頭蓋窩に入るという特徴がある。今回考案した類型化の方法は、この特徴を保持していた可能性の高い個体を検出するために有効であり、中硬膜動脈ブレグマ枝の起始に関する化石人類と現生人類、現生類人猿の類似性を評価するうえで有効である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、頭蓋冠を分離した日本人頭骨57個体分の調査を基に、中硬膜動脈が分布する広範な部位を対象に定性的分類の試案を作成したが、実際の形態は千差万別で、評価の難しいケースが少なからずあることが判明した。そこで、2019年度は、中頭蓋窩と頭頂部で観察できる血管の痕跡とそれらが眼窩に至る経路に焦点を当てて、東京大学総合研究博物館にて、2018年度に調査した頭骨57個体分(左右計114例)の再調査を実施し、追加で日本人頭骨21体分(左右計42例)の調査を実施した。この調査では、スケッチ、写真撮影、印象採取、テグスや金属線を使った血管孔の貫通性の調査を入念に行うことによって、観察結果の再現性を検証しながら、定性的分類方法の改良を進めた。これにより、観察例を11の類型に分類する方法を考案した。 また2019年度の後半からは、現代人では出現率が低いが類人猿では出現率が高い特徴を調査するために、京都大学霊長類研究所にてチンパンジー頭骨の調査に着手した。今年度は予備的調査として、チンパンジー頭骨5個体分(左右10例)を肉眼で観察し、また、そのうち頭骨1点を借用して東京大学総合研究博物館にてマイクロCT撮影による観察を行った。以上のように、中硬膜動脈に関する類型化の方法を考案したこと、また化石人類との比較参照群となるチンパンジー頭骨の調査を開始したことから、概ね順調に進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度後半からチンパンジー頭骨の調査を開始し、2020年度も調査を継続する予定だったが、新型コロナウイルス感染症の影響により、京都大学霊長類研究所での標本調査、及び標本を借用しての東京大学総合研究博物館でのマイクロCT撮影については延期せざるを得なくなった。 そこで当面は、2019年度までに収集したデータを基に分析と論文化を進める予定である。また、さらにチンパンジー頭骨に関するデータを収集する必要が生じた場合は、京都大学霊長類研究所が提供するヘリカルCTで撮影された画像データを参照する。 ただし、ヘリカルCT画像から正確な情報が得られない場合は、実物標本の観察及びマイクロCTでの撮像を行う必要がある。それらの実施に関して、新型コロナウイルス感染症の収束状況にもよるが、2021年度までの補助事業期間の延長申請を行う可能性がある。
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Causes of Carryover |
旅費の支払いと必要な物品を購入した結果として9円の未使用が生じた。2020年度の消耗品の購入に充てる。
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