2019 Fiscal Year Research-status Report
Basic research on establishment, maintenance, and therapy of non-human primate model of mucopolysaccharidosis
Project/Area Number |
18K06442
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大石 高生 京都大学, 霊長類研究所, 准教授 (40346036)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ムコ多糖症 / ニホンザル / 遺伝病モデル / 家系解析 / 水頭症 |
Outline of Annual Research Achievements |
霊長類研究所の放飼場の1区画で飼育されている鳥取県若桜地区由来のニホンザル個体群(若桜群)に関して、ムコ多糖症I型の原因となるアルファ-L-イズロニダーゼ(IDUA)遺伝子一塩基変異(SNP)の検査、排泄ムコ多糖の計測および発症個体の各種検査を行った。 IDUA遺伝子の一塩基変異検査は、すでに死亡した個体を含む若桜群個体176頭について実施した。これまでに検査していた個体を合わせると、野生型は117個体、ヘテロ型は62個体、ホモ型は4個体であった。ホモ型4個体のうち3頭は同腹子(父親はすべて異なる)で、残りの1頭はそのいとこ(母親同士が姉妹)であった。ホモ型個体の親は全てヘテロ型であった。また、父母子のトリプレットが確定している全例で、顕性遺伝をしていることが確認できた。 尿中および血漿中のムコ多糖の成分分析を、神戸薬科大学の北川教授と共同で実施した。その結果、ホモ型個体の尿中にはヘテロ型個体の尿中よりもヘパラン硫酸、デルマタン硫酸が多く含まれていた。血漿に関しては、デルマタン硫酸は全ての個体で非常に少なく、ヘパラン硫酸のみ、ホモ型個体で多かった。いずれの結果も、予想通りIDUA活性がホモ個体で低下していることを反映していることを裏付けた。 2020年度に行う酵素補充療法の実験の対象である1頭のホモ型個体(2016年生まれで顔貌等にムコ多糖症の症状が現れている)を放飼場から個別ケージに移し、酵素補充療法の実施に先立つ各種検査を実施した。ガーゴイル様顔貌、歯肉肥厚、手足の指の肥大、上腕骨の変形、大動脈の乱流の他、MRIで重度の水頭症が観察された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
若桜群に関して、IDUA遺伝子SNPの検査、尿排泄ムコ多糖の計測および発症個体の各種検査を行った。 若桜群は、1974年にメス12頭、オス9頭が導入されて以降、他の地域群との交雑なしに、群飼育されてきた(総頭数は460頭以上)。ニホンザルは、繁殖可能な雌雄が特定のペアを作らずに交尾する。霊長類研究所では、繁殖群を維持するために、母系の多様性を保つ配慮をしながら少数の雌雄を群れに残し、それ以外の個体を実験研究に供してきている。2020年現在、若桜群で繁殖可能なメスは9頭、オスは8頭である。保存血液から抽出した176頭(死亡個体を含む)のDNAを用いて、IDUAのSNPの有無を調べた。これまでに調べた個体のデータと合わせると、野生型は117個体、ヘテロ型は62個体、ホモ型は4個体であった。ホモ型4個体のうち3頭は同腹子(父親はすべて異なる)で、残りの1頭はそのいとこ(母親同士が姉妹)であった。繁殖可能なメスは、正常型5頭、ヘテロ型4頭、オスは正常型3頭、ヘテロ型5頭であった。父子判定が完了し、親子のトリプレットが確認できた組み合わせでは、顕性遺伝であることが実証され、ホモ型の4個体の両親は全てヘテロ型であった。 尿中および血漿中のムコ多糖の成分分析を、神戸薬科大学の北川教授と共同で実施した。ホモ型個体はヘテロ型に比べて、尿中にヘパラン硫酸、デルマタン硫酸が多く含まれていた。ホモ型個体はヘテロ型に比べて、血漿中に、ヘパラン硫酸が多く含まれていた。IDUA活性がホモ型個体で低下していることを反映する結果であった。 2020年度に行う酵素補充療法実験の対象である1頭のホモ型個体(2016年生)を放飼場から個別ケージに移し、各種検査を実施した。ガーゴイル様顔貌、歯肉肥厚、手足の指の肥大、上腕骨の変形、大動脈の乱流の他、重度の水頭症が観察された。膝関節や肘関節の固縮は観察されなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
ムコ多糖症発症個体が出た個体群は、霊長類研究所の4大個体群の中で、1974年に導入した1群(鳥取県若桜地区由来)のみである。さらに、ムコ多糖症の発症は、導入から4代後になって初めて確認されている。ムコ多糖症の原因となっている一塩基変異が原産地で生じたものか、それとも研究所に導入してから生じたものか、またそれらはどのように遺伝し、発症個体を生じるに至ったかを明らかにするために、現有DNA試料を用いて、家系不明個体の父子判定とムコ多糖症の原因となっている一塩基置換の検出を引き続き実施する。 水頭症発症個体に関しては、その発症原因を明らかにするため、脳脊髄液を採取し、ムコ多糖の組成と含量を正常サルの脳脊髄液と比較する。 個別ケージで飼育している発症個体に、酵素補充療法を開始し、治療効果と安全性を検討する。酵素は、徳島大学の伊藤孝司教授が開発したカイコ繭由来IDUAまたはCHO細胞を用いた組換えニホンザルIDUAを用いる。基本的には経静脈投与を用いるが、対象個体に水頭症が見られるため、その進行防止のために頚椎または腰椎レベルでの脳脊髄液への投与も併用することを計画している。治療効果を検討する中心項目は、血中、脳脊髄液中、尿中のムコ多糖組成と濃度、歯肉等の肥厚の程度、心エコー像、頭部MRI像、聴性脳幹反応、手指の運動機能、恐怖刺激に対する情動反応とする。 2020年度中に、ニホンザルにおけるムコ多糖症の発見の論文を投稿し、野生由来飼育ニホンザル群におけるムコ多糖症の発生、遺伝に関わる論文の投稿準備を行う。
|
Research Products
(2 results)