2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K06471
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
浜 千尋 京都産業大学, 生命科学部, 教授 (50238052)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | シナプス間隙 / アセチルコリン受容体 / Hig / エンドサイトーシス / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
hig欠損変異体のシナプス後膜上では、nAChRサブユニットの内少なくともDalpha5とDalpha6が減少する。われわれは、Higと相互作用する分子を同定する目的で、hig変異体が示す活動性の低下を回復させるサプレッサー変異を劣性変異として2種分離したところ、いずれもDalpha5中のアミノ酸置換変異であった(未発表)。さらに、Dalpha5の機能を完全に喪失した変異をCRISPR/Cas9法を用いて新たに作成し、それをhig変異体に導入して二重変異を作成したところ、活動性は回復し、またhig変異体で減少したDalpha6の局在量も回復していた。このことから、(a) HigはAchRサブユニットの中で選択的にDalpha5とシナプス間隙で結合する、(b) HigはDalpha5を介してAchRのエンドサイトーシスを抑制する、というモデルを立てた。このことを検証するために、サブユニットを過剰発現させHigの局在量を調べてみると、Dalpha5とDalpha7の過剰発現によりHigは増加し、Dalpha6の過剰発現ではHigは減少することが明らかとなった。すなわち、Dalpha5だけでなくDalpha7もHigと結合することが判明した。それでは、どうしてhigのサプレッサーとしてDalpha5だけが同定されたのだろうか。Dalpha5を過剰発現させると、その局在シグナルは強くなるが、パターンに異常は検出されない。ところが、Dalpha5をhig変異体で発現させると、その局在は点状に変化し、その一部は初期エンドソームマーカーであるRab5の局在パターンと重なっていた。しかし、Dalpha7をhig変異体で過剰発現させても、そのような異常は検出されなかった。このことは、Dalpha5はHigと結合する一方でエンドサイトーシスを経て内在化する制御機構を持つことを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主力メンバーの異動により、マンパワーが絶対的に足りないこととなり、研究の進捗状況は必ずしも十分とはいえず、さらに奮起する必要がある。アセチルコリン受容体のエンドサイトーシスの解析のために培養脳を用いてエンドサイトーシス阻害剤を作用させたり、遺伝学的にエンドサイトーシスを止める実験などを進めているが、in vivoに近い新しい実験であるだけに試行錯誤を繰り返しているのが現状である。ショウジョウバエのシナプスは構造的に極めて小さいため、直接エンドサイトーシスを検出することが難しく、また、異種細胞の表面にnAChRサブユニットを発現させ、さらに細胞外からHigタンパク質を作用させることは非常に困難であり、用いる研究手法に制限があることも研究の進展に障害となっている。現在の研究の方向性の上に条件検討を加えるとともに新たな手法の導入を検討する必要がある。 今年度は新たにhig変異体が睡眠に対して異常を示すか解析を試みた。hig変異体は活動性が低下していることから、活動性モニターで検出すると睡眠量が増加することが予想されたが、興味深いことに睡眠量は減少し、さらに非常に短い睡眠を断続的にとることが判明した。この変化がhig欠損による神経回路の発生異常によるのか、発生後の問題なのか区別するために、hig変異体にHigタンパク質を蛹の時期にのみ発現させる実験システムの構築を行った。しかし、成虫時に本来発現しないはずのHigタンパク質が発現してしまった。Hig発現のコントロールが今後の課題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
我々の研究の目的は、アセチルコリン受容体の局在制御機構を含め、シナプス間隙に視点を据えたシナプスの分化機構の解明にある。そのためには、アセチルコリン受容体の局在制御機構のさらなる解明を進めるとともに、シナプス間隙構築機構にも力を入れていく必要がある。シナプス間隙タンパク質であるHigとHaspはいずれも分泌性でありながら、コリン作動性シナプスのシナプス間隙に特異的にトラップされるため、Higのシナプス間隙への局在化に必要であるHaspの局在化の制御機構を明らかにしていくことが重要である。その制御因子の一つとして新たなタンパク質の同定に成功しているが、現在、特異抗体の作成に成功しておらず、このことが研究の進展を妨げているため、抗原の選択などを再検討してもう一度チャレンジすることが必要である。 今年度注力してきた、アセチルコリン受容体の局在制御機構については、さらに生化学的な解析から現在得られているモデルの検証を進めていきたい。そのためには、使用している脳からの膜分画の性質、シナプス小胞の含有量などを詳細に調べた上で実験結果を評価できるようにしていくことが重要な点となる。アセチルコリン受容体の制御機構については、実験上の難しさがあることから世界的にもわずかな知見しか得られていないが、神経生物の基本的で重要な問題であることから、本テーマの解明は神経生物学に大きなインパクトを与えるものであり、得られた結果を今後も慎重に検討していきたい。
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Research Products
(3 results)