2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K06471
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
浜 千尋 京都産業大学, 生命科学部, 教授 (50238052)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シナプス / ニコチン性アセチルコリン受容体 / Hig / ショウジョウバエ / シナプス間隙 / エンドサイトーシス / ナノコンパートメント / Hasp |
Outline of Annual Research Achievements |
シナプスは、神経伝達を通して脳機能を司る重要な装置であることから、神経科学の主要なテーマとして非常に多くの研究がなされてきた。しかし、その多くはシナプス前後部の構造や機能を対象としており、シナプス間隙の役割についての解析は十分に行われていなかった。特に、中枢コリン作動性シナプスにおいては、その間隙にどのようなタンパク質が存在するのか不明なままであった。本研究は、ショウジョウバエを材料に用い、中枢コリン作動性シナプスのシナプス間隙に存在するタンパク質の機能とシナプス間隙構造の構築機構を解明し、それを踏まえて新たなシナプス像を提出することを目的とした。 まず、われわれが同定したHigタンパク質は、コリン作動性シナプスの間隙に特異的に局在する分泌性タンパク質で、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の局在量を制御することが明らかとなっていたが、hig変異のサプレッサー変異の分離と解析を通して、HigはnAChRのDa5サブユニットと相互作用することが判明した。Da5サブユニットはエンドサイトーシスを誘導する作用があるため、Hig非存在下ではDa5を含むnAChRは細胞内に高い頻度で取り込まれるが、Hig非存在下では、HigがDa5と結合してつなぎとめることによりnAChRのエンドサイトーシスを抑制するというモデルを提出した。この知見は変異体を用いた免疫組織染色および生化学的な膜画分中に含まれるnAChRサブユニットの増減により得られた。さらに、Da5と他のサブユニットとの間のキメラタンパク質を用いた解析により、HigはDa5の細胞外ドメインと結合し、Da5のそれ以外の領域にエンドサイトーシスを引き起こす作用が存在することが明らかとなった。nAChRの局在制御についての機構は不明な点が多かったが、本研究の成果は、神経科学の中心的問題に対して一定の答えを与えるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HigがDa5サブユニットとの相互作用を通じてnAChRのエンドサイトーシスを制御していることを示せたことは大きな進歩であった。また、Da5サブユニットはnAChRのイオンチャネルを構成する機能的なサブユニットでありながら、Hig非存在下では、個体に致死性を与えるという興味深い結果が得られた。この表現型は、シナプスの機能不全を介して生じていると考えられ、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の発症機序を考える上で重要な知見になるのではないだろうか。アルツハイマー病の初期段階には異常なエンドサイトーシスが先行して生じるという報告もあり、今後も神経変性疾患を意識しながら研究を進めていきたい。 Higのシナプス間隙への局在化のためには、シナプス間隙にHaspタンパク質が存在することが必要であることをわれわれはすでに明らかにしているが、このHaspタンパク質もHigと同様に分泌性タンパク質であるため、さらにHaspを局在化させるタンパク質の存在が予想された。この問題に対して、免疫沈降と質量分析により、Haspと結合するCG42613タンパク質を同定することに名古屋大学、貝渕研との共同研究により成功している。このタンパク質は膜タンパク質であり、その遺伝的変異により、Haspの局在量が減少することも判明している。このように、中枢コリン作動性シナプスのシナプス間隙内の複合体構築機構についての解明がおおむね順調に進んでおり、この方向性でさらに研究を発展させていく必要がある。 なお、コロナ禍により研究が一時ストップしたため、次年度にまで研究期間を延長する手続きをとった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の点に力を入れて研究を推進していきたい。 まず、Da5と神経変性との関連性をさらに解析し、エンドサイトーシスの亢進がいかにしてシナプス変性および神経変性につながっていくのか、その詳細を追跡していく。 第二に、Haspをシナプス間隙につなぎとめるCG42613タンパク質の解析を進める。この遺伝子はグリアで強く発現するという報告があり、そのことを確認していく。われわれは既にCG42613抗体の作成と遺伝的変異の分離に成功しており、この抗体および外来遺伝子の変異体における発現系を用いて、グリア細胞での発現を確認し、さらにCG42613タンパク質のシナプスへの局在化を観察する。また、超解像顕微鏡を用いた解析により、HigとHaspは一つのシナプス間隙の中で近接しながらも異なる領域に存在してナノコンパートメントをそれぞれ構築していることが判明している。ここで、さらにグリアで発現している可能性のあるCG42613タンパク質の局在部位が、これらのナノコンパートメントとどのような位置関係にあり、シナプス間隙の機能的な構築を成立させているのか解明していく。さらに、CG42613変異体で、Hig、Haspナノコンパートメントの形成過程にどのような変化が生じるのか明らかにしていきたい。 第三に、シナプス間隙の脳機能における役割を解析していく。その一環として、睡眠に注目し、各変異体がどのような睡眠パターンを生じるのか赤外線を用いた計測装置を用いて解析していく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、研究が中断され、本年度の研究内容が翌年にまで持ち込みとなったため。2021年度の1年間かけて申請内容に従った予算の消費を計画している。
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