2018 Fiscal Year Research-status Report
温度受容において膜タンパク質機能を制御する機能性脂質の同定と解析
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18K06495
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Research Institution | Center for Novel Science Initatives, National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
曽我部 隆彰 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 准教授 (70419894)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 温度走性 / 温度受容 / 脂質 / ショウジョウバエ / 行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.ショウジョウバエの温度嗜好性を評価する行動解析装置を用いて、ショウジョウバエ幼虫を対象にした温度走性行動解析の立ち上げを行った。以前の所属研究室で使用していた機器の情報をベースに、所属機関の技術課と連携して同等のものを作製した。実際にアルミプレート上でリニアな温度勾配を確立するために条件を検討し、生理的な温度範囲でいくつかの温度設定を決定した。さらに手順に改良を加え、その詳細について論文を作成してJournal of Visualized Experiments誌に投稿し、採択された。 2.コントロール株およびいくつかの脂質遺伝子欠損株の幼虫を用いて温度嗜好性を検討した。まず野生型が想定した温度走性を示すのかを評価し、18-28℃の範囲では概ね安定した結果が得られることを確認した上で、MAGリパーゼの変異体を用いて同条件下で評価したところ、野生型とは異なる温度嗜好性を示すことを確認した。この結果を平成30年度に米国で開催されるThe 59th Annual Drosophila Research ConferenceおよびThe 13th Japanese Drosophila Research Conferenceにて報告した。現在、さらなる検討を進めている。 3.様々な温度条件での温度走性を検討し、コントロール株の選別と飼育条件(餌およびインキュベーターの温度)を最適化した。低温選好性を示す脂質代謝遺伝子の変異株を同定し、その表現型の確認と関連する遺伝子の変異体を用いた検討を進めている。 4.温度走性に関与する脂質関連遺伝子の候補を新たに検索するためのストラテジーおよびプロトコルを作成している。感覚神経をタイプ別に単離する手法を開発した研究者と討議し、具体的な手法について実施準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.温度勾配アッセイ装置の立ち上げは順調に進み、いくつかの脂質代謝遺伝子変異株の表現型解析に着手した。MAGリパーゼの変異体解析では複数の変異体で同等の表現型を確認できたが、ヘテロ体を用いて検討したところ温度走性の表現型が各変異体とコントロール株の中間となる結果が得られ、現在、確認と対策を進めている。また、低温を含む温度勾配条件ではコントロール株が想定した走性を示さなかったため、遺伝子バックグラウンドのチェックと交配によるヘテロ化で対処するべく対応を進めた。結果として、もともと用いていたコントロール株に何らかの変異が生じた可能性が示唆され、さらに飼育用の餌のコンディションや幼虫の発生速度も大きく影響することが明らかになった。そこで別に確保していたコントロール株へ移行し、餌の品質を安定化させ、インキュベーターの飼育温度を最適化した。低温条件での温度走性についておおむね安定した結果が得られるようになったので、いくつかの脂質代謝遺伝子変異体をテストし、低温選好性を示す変異体を確認した。低温受容の異常を示す既知の変異体についても同様の行動解析を実施し、同等の結果を得た。それらの遺伝子が同じ感覚ニューロンに発現するかについて検討を進めている。また、温度嗜好性を判定する比較パラメータを増やすために、幼虫の動きを自動トラッキングするシステムの開発に着手した。 2.温度走性に関与する脂質関連遺伝子をノンバイアスに検索するためのプロトコルを作成し、実施の準備がおおむね整った。また、発現遺伝子を選別した後に実施する行動解析スクリーニングに必要な温度走性アッセイの条件についてもいくつかのプランを立案し、それぞれに必要な新しい装置の設計を始めている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.これまでに得られた温度走性異常を示す脂質代謝遺伝子の変異体について引き続き解析を進める。主には、各遺伝子の発現パターンを精査し、それに基づいて感覚ニューロンの活性を人為的にコントロールした場合の表現型や、RNAiを利用した組織特異的ノックダウンなどで表現型を確認していく。関連する他の遺伝子の検索も進める。 2.ノンバイアスな脂質関連遺伝子の検索を開始する。単離細胞からのRNA抽出やマイクロアレイを実施し、その結果から、1)脂肪酸の合成・代謝酵素と輸送因子、2)二重膜の流動性や非対称性、または膜ドメイン形成に関わる酵素と輸送因子、3)膜タンパクの脂質修飾を調節する酵素を選別し、感覚神経タイプごとの脂質関連遺伝子リストを得る。その結果から、候補遺伝子のRNAi株(TRiPおよびVDRCライブラリー)を米国とオーストリアのストックセンターから入手する。これらと並行して、その後の幼虫および成虫を用いたスクリーニングに必要な設備の準備を進めておく。また、行動解析を自動化するためのトラッキングシステムの構築についても進める。RNAi株は感覚神経特異的プロモーターまたは全身でノックダウンを誘導し、変異体は個体を増幅して使用する。遺伝的バックグラウンドの影響を減らすため、コントロール株をかけ合わせたヘテロ体と比較する。これにより、温度嗜好性に関わる遺伝子の候補リストが得られるので、さらに詳細な解析へと移行する。
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