2019 Fiscal Year Research-status Report
温度受容において膜タンパク質機能を制御する機能性脂質の同定と解析
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18K06495
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Research Institution | Center for Novel Science Initatives, National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
曽我部 隆彰 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 准教授 (70419894)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 温度走性 / 脂質 / ショウジョウバエ / 行動解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.昨年度に立ち上げた温度勾配行動解析デバイスを用いて、ショウジョウバエ幼虫の温度走性を検討した。これまでに温度走性にはホスホリパーゼCが重要であることを突き止めているので、その下流で生じると考えられる不飽和脂肪酸の産生や代謝に関わることが予想される脂質代謝遺伝子の候補をデータベースから複数選別し、その変異体を入手した。いくつかの温度勾配条件の下で、コントロール株とそれらの遺伝子変異体の幼虫について温度勾配アッセイを実施したところ、いくつかの変異体についてコントロールと異なる分布を示すものが得られた。これらの成果について、2019年11月に岡崎市で開催された第2回ExCELLSシンポジウムおよび2020年3月に誌上開催された第97回日本生理学会大会にて発表した。 2.上記のように、これまでの研究成果から特定の遺伝子を選別する手法と並行して、温度走性に関与する脂質関連遺伝子の候補をノンバイアスに検索するためのストラテジーとして、感覚神経をタイプ別に単離する手法を立ち上げた。基本的には先行研究のプロトコルを踏襲したが、技術の習得に加えて様々な問題が発覚したため、各ステップの詳細な条件検討を実施した。その結果、現時点で目的の神経細胞を最も多く単離回収できる方法を確立することができた。また、今後の温度嗜好性の行動スクリーニングを実施する上で必要な幼虫のビデオ録画装置とトラッキングのためのソフトウェア環境の構築を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.ショウジョウバエ幼虫の温度走性において異常を示す脂質代謝遺伝子の変異体を検索し、不飽和脂肪酸の代謝に関わる遺伝子群の中からコントロールと異なる表現型を示す変異体が複数見つかった。具体的には1)MAGから不飽和脂肪酸を遊離するMAGリパーゼ様遺伝子、2)不飽和脂肪酸をMAGやDAGに付加するトランスフェラーゼ様遺伝子、3)内因性カンナビノイドであるアナンダミドから不飽和脂肪酸を遊離させるアミド水解酵素様遺伝子である。1)および2)についてはより涼しい温度域に分布のピークが見られ、3)についてはコントロールで見られた18℃付近のピークが消失した。さらに、2)の遺伝子についてはRNA干渉法による神経特異的なノックダウン変異体と同様の表現型が観察された。また、全ての遺伝子について感覚ニューロンにおける発現が確認された。現在、それぞれの遺伝子について新規の変異体を作製するため、コンストラクトの作製とCRISPR/Cas9の切断効率を確認する系を準備している。 2.温度走性に関与する脂質関連遺伝子をノンバイアスに検索するための感覚ニューロン回収法を確立した。当初は既報に沿った方法で成功したように見えたが、目的のニューロンの回収率や抗体の特異性など様々な問題を孕んでいることが明らかになった。そこで、各ステップについて条件を検討し、さらに別の手法とも組み合わせて独自の回収プロトコルを構築した。現在の最終テストでは特異性と回収率において最良の結果が得られている。また、行動解析スクリーニングに必要な温度走性アッセイに必要な新しい装置を所属施設の技術課と協同で完成させ、幼虫のトラッキングをする上で影や反射が最も少ない光源の条件を確立した。また、温度勾配上の幼虫の動きを自動トラッキングするための機械学習プログラムを導入し、行動アッセイ装置で得られた動画を用いて条件の最適化を試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.これまでに得られた温度走性異常を示す脂質代謝遺伝子の変異体について引き続き解析を進める。主には、各遺伝子の個体における発現パターンを精査し、それに基づいて感覚ニューロンの活性を人為的にコントロールした場合の表現型や、RNAiを利用した組織特異的ノックダウンなどで表現型を確認していく。また、発現神経の温度応答性について検討するため、神経内にカルシウムレポーターを発現させて活性を観察する系を立ち上げる。さらに、回収した特定ニューロンの脂質解析を変異体において実施し、どの脂質成分が変動しているかを同定することを目指す。 2.複数のタイプの感覚ニューロンを回収できたら、RNAを抽出した上でRNAseqを実施し、その結果から1)脂肪酸の合成・代謝酵素と輸送因子、2)二重膜の流動性や非対称性、または膜ドメイン形成に関わる酵素と輸送因子、3)膜タンパクの脂質修飾を調節する酵素を選別し、感覚神経タイプごとの脂質関連遺伝子リストを得る。その結果から、候補遺伝子のRNAi株(TRiPおよびVDRCライブラリー)を米国とオーストリアのストックセンターから入手する。RNAi株は感覚神経特異的プロモーターまたは全身でノックダウンを誘導し、変異体は個体を増幅して使用する。これらの系統はコロナウイルスの影響で現在入手が難しくなっており、予定通り進められるか見通しが立ちにくい状況ではあるが、上記以外のストックセンターやハエ研究者のコミュニティから直接入手するなど、様々な可能性を探って対処していく。
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Causes of Carryover |
今年度に予定していた単離細胞を使った遺伝子解析が、単離細胞回収プロトコル確立の遅れにともない予定通り実施できなかったため、未使用額が発生した。翌年度は、本年実施予定だった解析を実施する際に今回の未使用額と翌年度の請求額を合わせて活用する予定である。
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