2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K06497
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
野口 潤 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 微細構造研究部, 室長 (40421367)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
富田 浩史 岩手大学, 理工学部, 教授 (40302088)
菅野 江里子 岩手大学, 理工学部, 准教授 (70375210)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 樹状突起スパイン / 自閉スペクトラム症 / 自閉症 / マーモセット |
Outline of Annual Research Achievements |
自閉スペクトラム症(自閉症)においては、シナプス関連タンパク質の発現量あるいは機能の変異によって、発達期以降の神経回路に不安定性が生じ、脳領域間の結合が変化することで、その症候が生じる可能性がある。本研究では、神経回路の不安定性を可視化し、それをエンドフェノタイプとすることで、病態のさらなる解析につなげることを目指す。また、本研究ではヒトに近い霊長類であるマーモセットを用いることで、より有効なヒトの治療法の開発を目論んでいる。 今年度、シナプス後部である樹状突起スパインの経時観察を前年度に引き続いて進めた。大脳皮質前頭前野2/3層錐体細胞タフト樹状突起を観察して新規スパインの生成と既存のスパインの消去を3日ごとに観察した。その結果、スパインの生成・消去はadult自閉症モデルマーモセット個体において対照個体より亢進しており、神経回路の安定性が低下していることを支持する結果がこれまでのところ得られた。 樹状突起スパインは、その体積とシナプスの伝達効率(シナプス重み)に比例的な関係がこれまで知られているので、体積とシナプス安定性の関係について解析を行った。その結果、モデル個体では、体積の最も小さいクラスのスパインにおいて特に安定性が低下している傾向が見られた。また、モデル個体においては、体積が大きい(シナプスの重みの大きい)スパインにおいても消去が見られ、一旦安定した神経回路も一定割合でつなぎ替えられることがこれまで得られたデータから推測された。 マーモセットの鳴き声(isolation call)による発達過程の評価も幼若マーモセットで実施した。仔マーモセットが親から引き離された時の鳴き声の分析から、個体の発達をモデル個体と対照個体で評価する。本年度までにモデル9個体、対照23個体分の音声データが得られたので今後解析を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度はマーモセット大脳皮質において、大脳皮質 (前頭葉8野、視覚野) 2/3層錐体細胞タフト樹状突起を2光子顕微鏡で3日おきに経時観察したデータを自閉症モデル4個体、対照6個体で取得した。このうちの一部の個体の解析結果を、日本神経科学学会・分子生物学会で中間報告した。さらなる個体を加えた解析を後述のように進行させており、2020年度中の投稿を目指す。また、親からのisolation時の仔マーモセットの音声についてもデータ取得を行ったので、自閉症モデル個体と対照個体での発達の差異を今後分析する。 また、少数個体で糞便中の細菌叢解析を実施したが、モデル個体と対照個体では顕著な差異を見いだすことができなかった。細菌の代謝産物などとの関連について解析するためには、より多くの個体で体系的な細菌叢解析を実施する必要性があることがわかったので、一旦中止とした。 2019年にはこれまで解析を進めていた、マウス視覚野2/3層錐体細胞樹状突起スパインにおけるin vivo グルタミン酸アンケイジングによるスパイン形態可塑性の誘導に関する論文を出版した。
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Strategy for Future Research Activity |
概要: マーモセットを飼育している動物棟の不具合で、2020年度前半にマーモセットを他施設に移動して約6ヶ月にわたり修繕工事を実施することになった。したがって、マーモセットを用いた実験は2020年度後半から実施する。工事期間中は2019年度後半に新たに取得した樹状突起データの解析を行い、論文投稿を目指す。また、スパイン安定性と自閉症関連タンパク質発現との関連を解析するための方法を2020年度前半に条件検討を実施し、2020年度後半にマーモセットに適用する。 ■データ解析について: 2019年度後半で、新たに自閉症モデル2個体、対照4個体で樹状突起の2光子顕微鏡による画像取得を行ったので、個体数を増やして以下の解析を進める:樹状突起スパインと軸索ブトンについて、生成・消去の解析。また、それらの治療による変化の解析。また、マーモセット死後脳の形態を理化学研究所の協力でMRIを用いて取得したので、ミエリン化等について解析する。マーモセットのisolation callの解析についても実施し、モデル動物における発達過程の評価を実施する。 ■自閉症関連タンパク質の発現解析について: スパイン安定性は、スパイン内部のタンパク質の量や種類、リン酸化などの修飾状態に関係すると想定される。シナプトゾームを精製して包含するmRNAの解析を行うことでシナプスにおけるタンパク質発現の分析を実施する。この分析により自閉症状態と定型発達状態のシナプス内部状態の理解を進め、治療につなげる。
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Causes of Carryover |
主たる理由: データ取得を優先したために、国際学会における発表(北米神経学会)を取りやめた。また消耗品は他の研究費で購入したものを流用するなどで、余剰が生じた。 使用計画: 2019年度と同様、試薬等の消耗品や特注品の購入にあてる。次世代シークエンスの外注費用が相当数発生することが見込まれるので充当する。
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